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2020.1.22

「2つの老い」、役員の成り手が確保できない

高齢化社会

理事会・総会

「2つの老い」、役員の成り手が確保できない

人も、マンションも、老いていく

「杉原さん、俺もう理事長辞めたいよ」──電話口で、築50年のマンションに住む理事長がそう呟いた。無理もない。その方は80歳代になる。「理事会で決めた内容が覚えられない」「どの書類に押印していいかも分からなくなってきた」「責任を持ってやりたいけれど、もう難しいかもしれない」、そのようなお話であった。

私はマンション管理のフロント業務をはじめて2年目になる。この間の経験だけでも、ご高齢の方が理事長というケースは少なくない。ある理事会では、毎回のように古くなったマンションの改修をどうしようかと頭を悩ませている。が、最大の問題はその役員も高齢になっていることと、理事会を開催することすら難しくなってきたことだ。マンション改修は重要な課題だが、その議題を検討する理事会そのものがしっかり機能していないのだ。

ということで今回は、理事会の役員確保というテーマについて着目してみる。

代表的な輪番制度の実態

役員を確保するために多くの管理組合で導入している方法がある。それが「輪番制度」だ。役員の立候補制度を廃止し、輪番表を作成して機械的に毎年役員を選任する方法である。

私が担当しているAマンションでは、5年前に輪番制度を導入した。毎年メンバーが変わらない理事会だったので、役員もそろそろ交代したい、新陳代謝ができないのはよくない等の意見が役員からあがり、通常総会で輪番制度が承認された。しかし実態としては、輪番表で順番であるはずの役員候補者の方に声をかけるも、どういうわけか音信不通。役員就任を了承した方もいたが、毎回仕事の都合で不参加といった状況が続く。正常な理事会運営が長続きしなかった。そのため、結局役員メンバーを変えられず、輪番表があるものの毎年同じ役員メンバーで運営せざるを得なくなり、形だけの輪番制度となってしまった。

役員の成り手がいなくなるのは、もう目の前

Bマンションでは、75歳以上の方は役員候補者から除くといった条件付の輪番表制度を導入した。その背景には、高齢の方が長時間理事会に参加できないが多かったためだ。築35 年で戸数が小さく集会室などがないため、理事会は狭い管理事務室で行われていた。3回目の大規模修繕工事等、大改修の議案が多く、理事会は2時間を超えることが常だった。管理事務室には机と椅子のみで、エアコン等温度調節ができるものもなく、夏は蒸し風呂状態、冬は冷蔵庫状態と長時間理事会を開催できる環境ではなかった。町内会館を利用する方法もあるが、マンションから町内会館までは約1キロはある。そのような状況では、ご高齢の方が毎回理事会に参加できる訳もなく、健康面を配慮して75歳以上は役員候補者から除くこととなった。

導入から6年経っているが、毎年理事会役員が選任され、理事会活動を継続できている。しかしながら、この制度にも限界はありそうだ。マンションの居住者の平均年齢は72歳。若いといわれる世代もほとんどが60代を迎えており、あと10年もすれば役員候補者から除かれる75歳に達してしまう。居住者の高齢化という問題によってそもそものルールが維持できなくなる可能性が見えてしまったのだ。

外部専門家に頼るにしても、そのお金がない

高経年マンションの役員の成り手不足問題のために、国土交通省も対策を始めた。2016年には「マンション標準管理規約及び同コメント」が改正され、外部専門家が管理組合の役員や管理者に就任できるとする規定例等の整備を行った。この改正によりマンション管理士等の専門家が、理事長や理事役員に就任し、理事の成り手不足を解消させる一助になると期待されている。

Cマンションでは給水管排水管更新工事の件で1年間に渡って議論していた。築45年のマンションであるため、高額な工事はせずにマンションを取り壊して積立金等を住民に還元した方が良いという意見と、漏水が頻発しているので工事をすべきだという意見が真っ向から対立し、まったく話が進まなかった。ついには理事同士の確執も深まり、理事長が精神的に疲れてしまい入院。また副理事長は認知症を理由に退任した。そのような状況に耐えきれず、他の理事も理事会への出席拒否という状況になってしまった。

なんとかして理事会を機能させなくてはと残った理事の方々が考えたのが、マンション管理士を外部理事として迎え入れて、機能不全のリスクを回避しようという案だった。確かに他の居住者の方も高齢者が多く、理事の成り手は不足している。また、きっかけが給水管排水管更新工事でもあり、マンション管理の専門家に入ってもらうのは心強い。具体的に見積をマンション管理士から取ったわけではないが、他の居住者の方々にも意見を訊いてみた。

例えば、
「マンション管理士に支払う報酬は毎月数万円、年間百万円を超えるかもしれない。」
「給水管排水管の更新をしたらほとんどお金がなくなるのに、他に修繕が必要な場合の費用の手当てはどうするのか?」
「そのための管理費値上げは難しい」
といった他居住者からの意見が飛び交ってしまい、結局理事会はマンション管理士に理事になってもらうのを諦めることとなったのだ。

これからのマンションの課題は「お金」と「人」

私が直接目の当たりにした中で実感したこと。それぞれのアプローチは一長一短であったものの、2つの問題が共通していたと思う。

1つは、改修工事等のハードの面を維持させるための貯蓄に目が行きがちだが、実際は理事会運営等ソフトの面を維持させるためのお金が足りなくなるという問題。
2つ目は、役員の高齢化により、そもそも役員を確保できないといった人材不足問題。

今後は「お金」と「人」をどう確保していくかを早い段階から考えなければいけない。「まだ先のことだな……」と思っていては、その時はすぐに来てしまうのだ。

特に「人」の確保についての議論はあまりされない。マンションにお住まいでも役員に就任できない、就任したくない、といった個々の事情もあることを知ってほしい。また、どうしたら役員に就任した方の負担が大きくなり過ぎないようにするか等、役員に積極的になってもらえるような配慮や魅力ある理事会運営について考えていくことも今後の課題なのだと思う。

この記事の執筆者

杉原 圭亮

管理業務主任者。人・組織に関わる仕事をしたいと思い2017年大和ライフネクスト入社。新卒採用業務、管理組合の担当として運営補助業務などを担当後、現在は人事部HR企画課にて組織人事の仕事に関わりながら、事業推進部企画統括課にて長期修繕計画、積立金の改定に関するサービスを検討中。

杉原 圭亮

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