HOME > コラム > 【世界のマンション ~中国編~】びっくり?!中国の分譲マンション

2022.11.17

【世界のマンション ~中国編~】びっくり?!中国の分譲マンション

マンションの法制度

コミュニティ

サステナビリティ

中国でも所有者意識が変わってきている

この数十年間、中国の経済成長は著しいものがあり、中国の人々の懐事情は格段に豊かになった。

数十年前まで、住まいは「供給」されるものであり「購入」するものではなかった中国。しかし金銭事情が変われば消費意識も変わり、売りに出せば売れ、買い手が増えれば値が上がり、投資対象となるなど、中国のマンション業界は昇り調子が続いた。

ところがここへ来て、新型コロナウイルスによる経済の失速と供給過多のダブルパンチに見舞われ、状況は芳しくない。どうすれば資産価値を落とさずに維持できるのかという議論がかわされるようになった日本と同様に、中国における所有者意識も「マンションは管理を買う」という時代に突入してきている。

 

中国ならではの管理制度「小区」という単位

中国のマンションは一般的に、小区(しょうく)と呼ばれている。日本でいうところの団地にあたるが、一番の違いは敷地全体が高い外壁で囲われ、入り口が数か所しかないこと。外壁上には高圧電流が流れており、不法侵入者を防ぐ役割を担っている。敷地入り口には24時間警備員が配置されており、居住者以外の人が入るには、身分証の提示と入出記録表への記載、該当住戸への確認が必要である。

そしてこの小区は、数百戸から大きなもので数万戸になるものがある。江蘇省では1,000~2,000戸程度の小区が多い。

マンションの引き渡しと共に所有者が行うバルコニー封鎖

新築マンションの引き渡しといえば、竣工したばかりのピカピカの建物に誰しも心を踊らせるもの。しかし中国では事情がまるで異なる。

まず、区分所有者は鍵を受け取ると、内装工事申請書をフロントに提出する人が多い。何の工事申請をするかというと、「バルコニーをガラス窓で封鎖する」「造作家具を設置する」など、新築であるのにもかかわらず既成の居室をカスタマイズする人が多いのである。ちなみに日本では、共用部分であるバルコニーを封鎖する施工を希望する人はほぼいない。

中国ではあたり前のように行われているバルコニー封鎖工事だが、実は法律的には明確な規定はなく、共用部分と専有部分の区分があいまいな事例の一例でもある。慣習により行われていることが多く、行政によっては禁止しているところもある。ちなみに私が現在いる江蘇省内では実施されることが多いようだ。

一旦工事が始まると、折角のピカピカなバルコニーや室内は粉塵だらけとなり、それは共用廊下やエレベーターホールにも及ぶ始末。日中は建築中のマンションのように作業員が出入りし、作業音がこだまするので、ある程度工事が落ち着いて静かになるまで住めたものではない。

一昔前までは、専有部分をスケルトン(内装なし)で販売することが多かったが、最近では豪華内装付きで販売していることが多い。しかし、たとえ豪華内装付きでも、鍵の引き渡しとともに内装全部をやり替える強者も少なからず存在する。

中国における新築マンションの引き渡しは管理会社にとって、新居での新しい門出をお祝いするスタートというより、提出される施工申請書のチェック、規定に沿わないお客さまとの交渉、施工中の専有部分内で違法工事が行われていないかチェックする業務に明け暮れる「戦いの日々」の幕開けなのである。ここは日本の分譲マンションの引き渡しとは大きく違う点であろう。

赤枠内は封鎖されたバルコニー。最近の流行りは左枠の様に、 元々ある腰高の手すりガラスを撤去し、1枚の大きなガラスにするパターン。 右側はオリジナルの手すりガラス上にガラス窓枠を設置したもの

建築廃材置き場。毎日、多くの産業廃棄物がピカピカだった居室から運び込まれてくる

管理費の成り立ちとシステム

では、そのマンションを管理するために必要な管理費はどのように決められ、回収されるのだろうか。

まず、管理費は行政によって決められる。新築マンションの場合、販売開始前までに管理費等の詳細、管理仕様、管理会社が決められるのは日本と同じだが、デベロッパーがこの仕様でこの価格で販売したいと行政に申請書を提出し、周辺マンションの品質価格を物価局や建設局などの行政機構が比較検討したのち、上限額が設定される。その約2週間後に、公開入札により管理会社が決定する。デベロッパー傘下の管理会社が有利であることは確かだが、政府による公開入札のため、必ずしも落札されるとは限らない。 

さて、管理費の内訳である。共用部分の管理に係る費用という点では大きく変わりはないが、中国では、管理費はお客さまから直接管理会社が徴収を行うのだ。

管理費を回収できない=管理会社にとっては収入がないということになるため、回収業務は管理会社の一大業務である。そして、この回収できた費用の中から、清掃や植栽、警備、コンシェルジュスタッフの人件費が払われることになるのだが、日本と大きく違うのは、電球交換、共用部分の水道光熱費、鉄部塗装等の費用もここから賄われることだ。管理費を払ってもらうため、1年分一括払いのお客さまへのプレゼント企画や、お客様満足度向上のための季節ごとのイベント企画費用等も含まれている。

広大な敷地には、植栽が多く配置されており、風水のための水景も欠かせない

修繕積立金と計画修繕

修繕積立金は日本同様、納めることが義務付けられているが、長期修繕計画は存在しない。
修繕費用は、引き渡し時に基金として一括納入が基本であり、不足時に追加徴収する方式である。そしてこの費用は、管理組合でも管理会社でもなく、市政府が管理しているというのも驚きではないだろうか。

修繕積立金の使用が必要な大規模な工事を実施する場合、まずは集会を開き、規定数を上回り賛成承認されたのち、市政府にも使用用途等を申請し、許可を得なければならないという非常に煩雑な手続きであり、承認されることも少ない。承認されなかった建物がどうなっていくのかについては、書くまでもあるまい。

最後に

中国では、土地は所有権ではなく使用権。住居は供給されるものから購入するものへと大きく変化した。世界が経験したことのないスピードで成長を遂げた中国の人々は、豊かになり、海外へ出かけ、より良いものをたくさん知ることで、土地と建物の資産価値を上げることの重要性にも気づき始めている。

とはいえ、これまでの生活習慣を変えることはなかなか難しく、1人が変わったところで、数千人が暮らす小区の中の生活環境はすぐに改善することはないだろう。

管理会社の仕事は、建物と生活の安全を維持することであることには代わりはないことを考えると、お客さまと一体となって、生活品質の向上のために日々取り締まりを強化することが、未来への第一歩だと思い、あきらめずに奮闘する日々である。


※シリーズ 「世界のマンション」 公開中!
 > 日本編 : 軍艦島、築100年超の建物寿命を考える
 >   インド編:豪華なタワーマンションが建つ街

この記事の執筆者

藤木 達子

大和ライフネクスト2011年入社。マンション管理事業部にて主にリプレイス、新築マンションの管理設計や立ち上げなどを行う部署を経験後、2021年1月より中国江蘇省にある大和宝業(江蘇)物業管理有限公司に出向中。

tatsuko fujiki

Related post

2022.11.11

コラム

【世界のマンション ~日本編~】 軍艦島、築100年超の建物寿命を考える

2022.11.24

コラム

【世界のマンション ~インド編~】 豪華なタワーマンションが建つ街