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2023.5.17

あなたのマンションでは、何年後に修繕積立金が不足しますか?

長期修繕計画

タイトルに掲げたこの問い。当事者の中で、これに答えることができる人は、どのくらいいるだろうか。

筆者がフロント担当を務めた竣工4年目の管理組合において、修繕積立金見直し方針の確認をした際、「修繕積立金って不足するのですね」「購入4年目で将来の修繕積立金不足を検討する必要があるのですか」といった声が挙がった。

「修繕積立金」──これを、何もせずに放っておくと将来不足することを知らないのだ。それも共感できる。なぜ不足するのかといった仕組みを理解できていないと、そんな事態に陥るなど微塵も想像したことがないはずだ。

修繕積立金が将来不足すると、どのような影響があるのか。当然のことながら建物の維持修繕ができなくなり、設備破損・建物劣化につながる。例えば、給水ポンプの更新ができずに故障してしまった場合、シャワーの水が出ない、トイレが流せないということも考えられる。つまり、入居者の快適な生活が脅かされることになる。

修繕積立金が不足した管理組合の事例

実際に、将来の修繕積立金不足への対策を行わなかった管理組合の事例を紹介する。

33期を迎え、3年後に3回目の大規模修繕工事を控えていた。予定工事額は約1億円だが、手元にある修繕積立金はわずか約400万円。工事までの3年間、支出なしで修繕積立金を積み立てたとしても、工事額まで約5,000万円足りないという状況であった。筆者が参加した理事会では、重たい空気に包まれ、どうにも居た堪れなかったことを記憶している。
「毎年、修繕積立金の値上げが議題となり、気分が下がってしまう。早く改善して、この話題から逃れたい」
「区分所有者の大半を、仕事をリタイアした70歳以上の高齢者が占めているから、30期くらいから値上げをするのは気が引ける。合意形成も難しい」
「工事直前まで値上げできなければ、一時金徴収で1部屋数百万円払わなければならないのは、もっと難しい」
「工事を延期するにしても、過去にバルコニーや共用廊下から住戸への水漏れが発生したこともあるし、床面の防水工事はしておいた方が良い」

結果、マンションの劣化が進んでいるため工事を実施しないという選択はできず、緊急性のある箇所に限定して修繕工事を実施することとなった。現在でも、管理組合では修繕できなかった壁面と今後の専有部分の配管更新に向けて、一時金徴収や修繕積立金の大幅値上げの検討が続いている。

また、ある管理組合では修繕積立金の不足を補うべく借り入れを行っている。元管理会社の提案不足などもあり、竣工21年で一度も修繕積立金の値上げを検討してきていなかったのだ。その後、筆者が勤務する管理会社へと切り替えたが、修繕積立金が計画通りに積み立てられておらず、3年後の24期に予定している約6,600万円の機械式駐車場設備工事を実施するためには数千万円の資金が不足している状況であった。

過去に機械式駐車場のパレット落下事故を経験しているこの管理組合は、機械式駐車場の部品劣化がもたらす危険性を理解していたため、工事開始の引き延ばしは避けられないと判断し、結果的には借り入れをすることで資金を調達し工事を実施した。現在は、2年かけて返済を行っている最中である。借り入れを決意した当時の理事長が「利子により長期修繕計画よりも支出が増えてしまったので、今となっては早い段階から先を見据えた修繕積立金の値上げ検討をしておけば良かったと感じる」と理事会で述べていたことが印象に残っている。

このように、計画通りの修繕積立金の値上げを行えず、借り入れで不足分を賄う管理組合は増えつつあるように感じる。しかしこういった管理組合では、他の維持修繕に資金を回すことが難しい状況であるため、結果として一時金徴収や修繕積立金の大幅値上げの検討を行う必要がある。

なぜ修繕積立金が不足するのか

「そもそも、なぜ竣工当初に計画された修繕積立金の額で工事を実施できないのか」という疑問が沸くことだろう。これを理解するためには、長期修繕計画と修繕積立金計画についての正しい理解が必要である。

◆長期修繕計画とは
どんなに堅牢に見えるマンションでも、経年によりさまざまな部分に劣化の症状が現れる。例えば、築10~15年で屋上の防水層剥がれが発生し、最悪の場合は雨天のたびにお部屋内に漏水することもある。このような事態を防ぐために、各建築部分や各設備の劣化進行度合いに基づき、将来見込まれる修繕工事の内容、おおよその時期、概算の費用を計画しておく必要がある。これが長期修繕計画である。

◆修繕積立金計画とは
長期修繕計画で将来見込まれる修繕工事の見当が付くと、莫大な費用が掛かる大規模な修繕が複数回発生することが分かる。そこで、一度に多額の費用負担が発生することのないように、前もって毎月一定額を積み立てていく計画が必要である。これが修繕積立金計画である。

◆2つの修繕積立金計画方式
修繕積立金の積み立て方式は、「均等積立方式」と「段階増額積立方式」の2つがある。
・均等積立方式:長期修繕計画で見込まれている工事総額を毎月均等に積み立てる方式であり、
長期修繕計画の期間中は修繕積立金の支払額が変わることがない。
※ただし、長期修繕計画の変更により当初の計画に変更がある場合は支払額も変更される。
・段階増額方式:段階的に値上がりするスケジュールをあらかじめ設定しておく方式であり、
 スケジュール通りに修繕積立金が増額していく。ただし、スケジュールはあくまで計画であり、値上げする前には区分所有者の合意を得るため総会承認が必要である。

分譲時に作成される長期修繕計画と修繕積立金は、以下3つの理由から定期的に見直す必要がある。

定期的な見直しが必要な3つの理由

1.計画通りに行えない場合があるため

工事時期や工事額を設定したものの、現状において計画にズレが生じることがある。例えば、大規模修繕工事の準備検討が長引いてしまい計画よりも遅れて実施したというケースは少なくない。

また、多くのマンションでは前述の2つの積立金計画方式のうち「段階増額積立方式」が採用されており、修繕積立金を徐々に値上げしなければならない設定となっている。(国土交通省発行の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和3年9月改訂版)」では、マンション購入者の購入当初の月額負担を軽減できるため、段階増額積立方式が広く採用されていると述べられている。)

この修繕積立金の値上げ時期や値上げ額が修繕積立金計画から乖離することで、計画にズレが生じる。修繕積立金の値上げは総会承認が必要であるため、区分所有者の合意が必要である。区分所有者からの「値上げ反対」や「できるだけ値上げ額は少なくしたい」という声がある中、「妥協点として値上げはするが計画よりも少ない値上げ額で進めた」という理事会を見てきた。計画にズレが発生した場合は、長期修繕計画や修繕積立金計画の見直しを行い、最新の計画にしておく必要がある。

2.工事費の相場が上昇している場合があるため
社会情勢によって変動する部材費や人件費の高騰により、工事費が上がることがある。また、エレベーターの閉じ込め事故発生により、扉が開いた状態で動くことを防ぐ装置設置が義務付けられるなど、法改正により設置義務が付加されることで工事費が上がることがある。

いざ修繕を実施する際に取得した工事見積が、当初計画していた金額よりも高額となり計画書の意味をなさないということを避けるために、定期的に相場の確認をすることが必要である。長期修繕計画にて当初想定されていた工事費(支出)が上がると修繕積立金(収入)も上げなければならない。

3.グレードアップ工事を実施する可能性があるため
高齢者が多いマンションにおけるバリアフリー化や、住みやすさ向上のために断熱効果・結露防止効果のある窓ガラスへの変更など、グレードアップ工事を検討する場合。これは「異例」であるため、当然計画外である。

長期修繕計画は、分譲時同等の状態へ復旧することを目的として作成されているため、グレードアップ工事は含まれていない。技術の進歩によりグレードアップ工事のバリエーションが増えていることや、居住者からの要望も時代とともに変化していくことをふまえると、定期的な検討が必要である。長期修繕計画にて当初想定されていなかった工事(支出)が増えると修繕積立金(収入)も上げなければならない。

※重さと風により扉の開閉が困難な高齢者・身障者への配慮のため、エントランス扉を自動ドア化した事例

要するに、修繕積立金を現状に即した額にする必要があり、そのために長期修繕計画および積立金計画の見直しを定期的に行う必要がある。この定期的な見直し検討を実施できていない管理組合は修繕積立金が不足する危険性が高い。当初の修繕積立金計画のスケジュール通りに値上げができていない場合や、計画されていない工事を実施した際に修繕積立金計画へ反映できていない場合、気づいたときには予定よりも大幅な値上げが必要になるというわけだ。

修繕積立金が不足する前に

こうした事態に注意喚起を行うため、国土交通省では5年毎に長期修繕計画および修繕積立金計画の見直しを行うようにガイドラインを定めている。

既に定期的な長期修繕計画および修繕積立金計画の見直しを行っている管理組合は継続していただきたい。そして、これまで見直しを行ってこなかった管理組合は、今からでも遅くないので見直しを検討してほしい。

私が勤務する管理会社では、管理を受託する管理組合の修繕積立金が適正な状態であるかを判断する材料の一つとして、特性(戸数・築年数・立地など)が類似している他マンションではどのような状況か、国交省が提示する修繕積立金基準と比べてどうか、などを分かりやすくまとめた資料をお渡ししている(※注)。あなたの管理組合で、修繕積立金の見直しをしなければならなくなった際にも、このような観点を参考にしてみてほしい。
※注:一部対象外のマンションもあります。

最後に

マンション購入者であるあなたは、知らないでは済まされない。購入して5年後にいきなり「修繕積立金を3,000円上げます」と管理組合から言われたらどうだろうか。年間36,000円の支出が増える準備をしているだろうか。

また、購入して10年後にさらに3,000円上がりますと言われたら──。将来の修繕積立金の額を想定するためにも、当事者として自身のマンションがいつ・いくら必要なのかを知っておく必要がある。

管理組合が考えることだからと避けていないだろうか。先のことだからと目をつむっていないだろうか。今、自分事として捉えて考えてみてほしい。
 

この記事の執筆者

村上 昂佑

管理業務主任者。2018年に大和ライフネクスト株式会社へ入社。マンション担当(フロント)として、小規模~大規模、ワンルームマンション~ファミリータイプまで幅広い管理組合運営に携わった後、新築マンションの管理費積立金・管理規約などの計画部門へ異動。現在は、さまざまな管理組合ニーズに応えるために新しい管理設計の企画を行っている。

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