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2023.12.6

ワンルームマンションの「メリット」と「問題」

組合運営のヒント

マンションを取り巻くリスク

ワンルームマンション、買いませんか?

電話口でいきなり、「丸山様、少しお時間いただけませんか?ワンルームマンションのご案内です!」と、まるで旧知の友人のような口調。

ちょうど原稿の手が止まり、しかめっ面で推敲に悩んでいた私だが、この親しさ満点の声ですっかり緊張の糸は切れる。いつもなら「結構です」と受話器を置くのだが、「私の名前と電話番号をご存じなんですね?」と、少し意地悪に尋ねてみた。

彼は、会社支給の携帯は連番で、知人の電話番号の末尾を変えて電話してきたという。しかし、電話がかかってきたのは私用の携帯だし、私の名前を知っているのはおかしい!

方便の稚拙さに吹き出しそうになりながらも、「私の名前をご存じなのでびっくりしました」と伝えると、何度か私の名前を口にしていたにも関わらず「私はあなたの名前は知りません」と断言して電話を切られてしまった。個人情報保護法をよそに情報は出回っていると聞く。秘密の名簿とやらを渡されて、懸命に電話してくる営業マンも大変だなぁと、つくづく感じた。

さて今回は、彼が私に勧めようとしていたワンルームマンションがどんなものなのかを整理してみようと思う。

投資用分譲マンションって、なぜ人気が衰えないの?

読者の中にもワンルームマンションのオーナーはいるだろう。

少ない元手で始められ、長期的な家賃収入の期待や減価償却の損益通算、また融資では団体信用生命保険に加入することになるので生命保険代わりにもなる。これらのメリットがあることから人気は高いという。

減価償却の損益通算とは、借入金の金利・管理費等の経費はもちろん、建物部分の減価償却費の経費を、所得税や住民税の算出時に所得から差し引くことができる。つまり、納税額の軽減が可能となり節税につながる。

不動産投資ローンを借りると団体信用生命保険への加入が必要となる。契約者に万一のことがあれば、ローンの残債は保険金で完済。残された家族は借入金0円のマンションを相続でき、家賃収入が入る。また売却すれば現金化することも可能なのだ。

また、相続税も有利になる。

現金と比べて不動産は土地部分は路線価、建物部分は固定資産税評価額によって計算される。これらは一般的には公示地価の6~8割ほどで設定されているため、大まかな言い方をすれば現金による相続よりも2~4割の節税が可能になることになる。もちろん、不動産の相場は変動するということを理解しておく必要はある。

賃借人がいる投資用物件は、評価額からさらに3割程度が控除される。賃借人がいるため所有している者が自由に利用できない分を評価から減額するという考え方だ。

さらには、投資用のマンションであれば貸付事業用宅地として200平米以下の場合は「小規模宅地等の特例」が適用される。だから、ワンルームマンションなどの不動産投資は相続対策には有利に働きやすい。

ただし、税法の改正や細かな条件などもあるため、不動産投資をする際は税理士等に相談しながら自分でしっかりと実態を把握しておくべきだ。メリットを勝ち取るのも自己責任と命じておいてほしい。

そんなわけで、ワンルームマンションの投資にはサラリーマンオーナーも多く、人気は衰えていない。

もちろん、投資なのだから良いことばかりではない。

節税効果だけにとらわれず、しっかり収益が確保できるものかどうか。物件選びがもっとも重要なポイントになる。表面利回りに惑わされず、あえて悲観的なシミュレーションでそれでも大丈夫だと自分自身が思えるものに投資するのが鉄則。しかし、素人投資家にとっては、この物件選びが一番難しいということなのだろう。
私個人としては、この手の投資は推奨も否定もしない。

私自身はバブル以前のずいぶん昔だったが、新築のワンルームや中古の2LDKクラスのものにいくつか投資していたが、自宅マンションの購入のためのローン枠を確保した方が良いと判断し一斉に処分した。タイミングよくバブル崩壊前にすべてを手放すことができた。
投資は若気の至りと思うことにし、それ以後、身の程を察し手は出さないと決めている。

ワンルームマンションのいろいろ

日本で最初のワンルームは、黒川紀章氏設計の東京都中央区銀座の中銀カプセルタワービル(1972年竣工2022年解体)という説がある。鳥の巣箱のようなユニットを積み重ねたユニークな建物だ。

ワンルームは、1980年代以降に急増。首都圏のストック数は30万戸を超えた。無視できないボリュームだ(2021年東京カンテイ調べ)。

古いワンルームでは15㎡以下の狭小なものも多い。10㎡そこらで梯子付きベッドを天井近くに設置し、その下を有効活用できるように工夫し販売していたものもあった。しかし、狭小ワンルームは、賃借人が付かず空き住戸となりやすいという。

賃料収入を充てにローンを組んで家賃が入らなければ生活費に食い込んでしまう。サラリーマンにとっては一大事だ。結果、管理費等の未払いも発生しやすい。マンション全体で未払いが増加すれば、最低限の維持管理もできずスラム化するということも考えられる。

東京都区部では新たに建設する場合は25㎡以上規制を導入しているケースが多い。ワンルーム条例だ。しかし、条例施行の前に建てられた数十万戸の空家予備軍が気になる。

条例の影響だろうか、土地や建築費の高騰、用地取得の難しさもあり、投資用物件の供給の仕方は多様化している。例えば、3DKなどの築古のファミリーマンションの1室を競売入札などで取得し、広いワンルームにリノベーションする。買取再販というやつだ。賃貸用だけでなく民泊用として使われるケースも散見されている。

また、リーマンショック後は多くの企業が社宅などの資産を処分した時期があった。これらを1棟まるごと引き取りリノベーションし投資用として再販分譲するケースなどもある。

等価交換事業では、元地権者が分譲用のファミリータイプと混在させ、複数のワンルームを所有するケースや、自己に有利な管理規約を用意し、かつ議決権の多さを利用し専横的な運営がなされているケースもある。

居住と投資とでは、目的は異なる。所有者の価値観も異なる。管理運営面での調整が難しいのも事実だろう。

ワンルームマンションの課題とは?

マンション全体がワンルームマンションのような分譲賃貸の場合、一般的にはほとんどの区分所有者は居住しない。当然、管理組合員として顔を合わせる機会はまずなく、不動産相場の上昇に乗じキャピタルゲイン※狙いの転売も行われやすい。所有者の入れ替わりも多い。

※キャピタルゲイン:売却によって得られる売買差益のこと。家賃収入はインカムゲインといわれる。

総会等への出席率は低く、管理を管理業者に任せきりする傾向があり、工事の発注や支払金額、また重要事案の事後報告をめぐりトラブルになるケースもあると聞く。マンション管理に関する主体性が低いため、一部の区分所有者が問題意識を持ったとしても、前向きな解決は難しくなりやすい。1棟の賃貸マンションやアパートを所有するオーナーと、区分所有建物の分譲賃貸マンションとの大きな違いだ。

投資家にとっては、手間暇をかけずに日常的な管理がなされ、投資価値を低下させないことがすべてだ。サブリースによる賃料保証等の入居者管理に合わせて、管理組合が行う管理についても、管理業者が管理者となりすべてを任せることを歓迎するのも事実だろう。

これが、管理業者が管理者になる第三者管理者方式を採用する理由だ。その他にも、理事
会の開催を年1回のみと管理規約で定めているケース、理事会を構成せずに一人の区分所有者を管理者と定めるが実質は管理業者が差配するようなやり方もあるようだ。

不動産を購入するというよりは、節税効果付きの債権を購入したという感覚に近いのだろう。第三者管理者方式などの管理運営方式の良し悪しを論ずる前に、一般のファミリーマンションとは異なる管理運営上の課題が存在するのは確かなのだ。

東京都豊島区が先んじて「豊島区マンション管理推進条例」を制定した。別件の取材に伺った際に、同区にワンルームマンションが多かったことが背景にあると区の担当者が言っていたのを思い出す。

投資価値が失われたワンルームマンションはどうなる?

区分所有者が住んでいるマンションなら、管理組合の主体性と民主的な運営を基軸にマンションの健全性の維持をみんなで考えていけるだろう。では、投資用の分譲賃貸マンションは果たしてどうなのだろう。

ワンルームマンションは、経年と共に入居者募集が難しくなる。地方都市はそもそも賃料相場は低いが、それ以上に分譲価格が安いため表面利回りは高くなりやすい。しかし、経年と共に入居募集が難しくなって、修繕等など維持費の方がインカムゲインを上回ってしまう場合もあり得る。投資価値が失われると、経費をかけず塩漬けにしようと放置状態に至りやすい。

バブル期に学生賃貸用として売り出された1千室近くもある巨大なワンルームマンションがある。バブル崩壊後に運用会社が倒産。不法占拠者も多数入り込み建物管理もなされなくなった。借家人の学生らは一斉に逃げ出し、オーナーには賃料収入が途絶え、転売しようにも転売もできない状態になった。投資した多数の区分所有者は破産も覚悟し頭を抱えた。
一方で、最初の1、2年だけ私も微力ながら手を差し伸べたことがあったが、最終的には主体性と民主的な運営を基軸に、自力で自主管理の権利を奪い返し再生を果たした奇跡の管理組合も実在している。
当時はまだ築年も浅く、立地も良く造りも立派で、確かに条件は恵まれてはいたが、この投資用物件の再生は極めて稀な事例だと思う。

問題は、最後は誰がどう処分するのか

賃貸価値が消滅してしまったら、解体し処分するしか方法はない。しかし、謄本から所有者を探り、総会を開き、みんなから解体費を集める。労力と金をかけたあとには、僅かな共有地が残るだけのことを、果たして誰がするのだろうか?

空家特措法による行政代執行で解体された野洲市のマンションを解体前に見学した。行政代執行は、行政が立て替えて解体するのだが、1億円以上の解体費用の多くは、未だ回収できずにいるという。社会的損失なのだ。

仮に居住用でも古くなり賃貸化が進むことは多い。さらに古くなり賃借人が付かないなど、収入が維持費を下回れば、放置してしまうのは当然の経済行動だと思う。住まうための実需型のマンションでも経年化すればあり得る話ではあるが、高経年ワンルームマンションはさらに可能性は高く、より早く末期が訪れてしまう。そうなる前に転売しても所有者が替わるだけで、社会的損失の回避にはならない。

もはや、マンション管理の大切さを啓発するだけで解決するとは思えない。所有者責任に比重を置いた制度や規制が必要になると思うのは、私だけだろうか。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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