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2023.12.20

Part2「避難所へは行くな」、マンションなら“当たり前”

防犯・防災

AIに「マンション 避難所」を聞いてみる

最近、仕事ではなく、私個人のスマホやパソコンを使って、新しい遊びをおぼえた。今、世界を騒がせている自然言語処理技術を用いたAI君との遊びだ。会話のソースをネット上から自動的に拾い上げ巧みな文章に生成し答えてくれる、例のやつだ。「マンション 避難所」をたずねてみた。結構なボリューミーな答えが戻ってきた。その一部を少し思い出しながら紹介しよう。

~マンション住民は、災害が起きたときに避難所に行くのではなく、自宅で在宅避難をすることが求められることが多いようです。そのためには、水や食料品、携帯トイレなどの備蓄やマンションの給排水設備の状態を確認するなどの準備が必要です。また、防災マニュアルを作成するなど、マンションの管理組合が被災時の避難生活上のルールも決めておくことが大切です。~

私の使っているものはシステムが参照したWEB上のコンテンツも合わせて表示してくれるので、そちらもいっしょに読み込めば、さらに深く学ぶことが可能だ。参照コンテンツの中には、以前、私が書いたコラム ―「避難所へは行くな」、マンションなら“当たり前” ―も出てくる。

想いを込めて書いた作品が、別の入り口から読者に発見されることになる。私としては大歓迎の新技術といえる。これからはいかにAIに信頼される文章を書くかが、参照コンテンツとしてヒットしやすくなるのだろう。

世の中の浸透の仕方はどんどん変化する?!

「避難所へは行くな」、マンションなら“当たり前”―は、今から5年前の2018年に私が「在宅避難」をテーマ書いた2千字にも満たないコラムだが、その閲覧数はコラムの中でも常に上位で、少し大きめの地震が起きるとその数値は跳ね上がる。鉄板コラムと自負している。

今回あらためて5年前のコラムを引っ張り出してPart2を書こうとしたのは、もちろん、自慢のためではない。5年前と今の、防災に対する世の中の受け止め方や浸透の変化を整理してみたかったからだ。

前述のコラムを公開する少し前まで、「在宅避難」ということばは、まだ一般的に使われていたわけではなかった。「自宅で生活しているのに避難というの?」といった感覚の方が強かったようだ。当時のコラムでは「在宅避難」ではなく、私自身のことばで「自宅避難」と書かせてもらっている。

東日本大震災では、避難してきた人々が避難所に入りきれない、また避難生活用の物資が足りず全員に行き渡らないなど、現場では混乱が生じた。人口密度が高い、いわばマンション化率の高い首都圏などのエリアで地震が発生したら、さらに大きな問題になるのは明白だ。

一方で、旧耐震の建物の耐震診断や耐震補強も社会的課題として浮上し、少しづつではあるが対策も進んだ。そんな背景の中、行政は震災後も在宅で避難生活ができるなら自宅にいてもらおうと、堅牢なコンクリート造のマンション住民に対しては、「在宅避難を!」と呼びかけてきた経緯がある。それが、「在宅避難」が浸透していった理由だろう。

もちろん行政は「在宅避難」している者も“避難者”と定義すると明記している。しかし、10年前の2013年の時点では、在宅避難者の状態把握のための対策を立てている自治体はわずか7%に過ぎなかった。(内閣府の避難に関する総合的対策の推進に関する実態調査結果報告書より)
その後、徐々に各自治体も対策や計画を立てるようになり「在宅避難を!」といえるようになってきた。その結果「在宅避難」ということばが定着していったのだろうと考えている。
そんな経緯を残すためにも、5年前のコラムの「自宅避難」という表記は「在宅避難」に書き換えなどはせずに、そのままにしておこうと思っている。

なぜ、マンションは在宅避難?

Chat GPTの文例では、「マンションなどの耐震性の高い建物での在宅避難が推奨されています」という。もちろんそう推奨しているのは行政ということだ。首都直下地震や南海トラフなど、震災の脅威がささやかれる今日、政府や自治体のアナウンスの甲斐もあり、マンションの住民は自宅で避難することが半ば常識になってきた。

しかし、一方で「どうして行政はマンション住民には在宅避難を求めるのか」、という不公平の念を抱く人もいるかもしれない。
もちろんケースバイケースなのだが、マンションに住んでいるのであれば、避難所に行くリスクを取るよりも自宅で避難生活期を送った方が有利であることが多いことを理解さえすれば、納得はいく。

電気・水道・ガスの生活インフラが止まっていても、新耐震のマンションであれば震度6強でも倒壊はしない。散らかった部屋を片付けて居場所を確保できれば、暖を取るための衣服も部屋の中にあり、プライバシーも確保でき、買い置きの食料があれば避難生活期を送れる。

多くの人で混み合って感染リスクや横になるスペースを確保するにも苦労する避難所と “堅牢さ”というマンションの“強み”を理解すれば、在宅避難の方がはるかに有利な条件なのだということも理解できるだろう。
そして、マンションの“弱み”、それは“高さ”だ。この“弱み”を理解しておけば、「在宅避難」のための“備え”はどうあるべきなのかも理解しやすい。

ここでは”備え”についてのハウツーは説明しないが、5年前にアップしたコラムでは、避難所のリスクやマンションの強み・弱みなどに触れ、「在宅避難」について語っている。興味があればこちらも読んでいただければうれしい。
―「避難所へは行くな」、マンションなら“当たり前”―

防災の考え方は常に進化している_取り残されてはいけない!

さて、「在宅避難」ということばが定着したのは、最近のことであると申し上げた。
防災に関する普遍的な原則は変わらなくとも、新しい考え方や対応方法が私たちの想像よりも短いサイクルで次々と生まれてきている。

たとえば、ローリングストック(Rolling Stock)。日ごろから普段食べている食品を少し多めにストックし、定期的に食べながら非常時に備える方法のことで、今や一般的に使われることばとなった。一見すると海外からきたノウハウのように思えるが、東日本大震災以降に日本で作られた和製英語だ。英語圏でRolling Stockといっても通じない。直訳すれば“鉄道車両”となってしまう。

もう一つ紹介しておこう。
仙台で行われた国連防災世界会議(2015年)では、私もシンポジウムの一枠をいただき、「集合住宅と地域コミュニティによる防災減災」を企画させてもらった。そこで議論したひとつのテーマが「地震が来たらガスコンロを消す」というアナウンスの是非だ。

「大きな揺れが来たらガスの火を消して火災に備えましょう!」と、複数の行政がホームページなどで案内をしていた。震災関係のセミナーでも、「地震が来ました。まずガスコンロの火を消すのは〇、×、さてどっち?」と質問をすると、火を消すのが正解と答える人は、今でもまだ多い。2015年の段階でも、おそるおそるしゃがみこんでガスを消す人物のイラストをわざわざ入れて紹介している行政もあったぐらいだ。

ではなぜ×が正解なのか。揺れが起きている中で無理にガスの火を消しに行って、熱いお湯や油を頭からかぶってしまうことの方がよっぽど危険だからだ
確かに100年前の関東大震災では、大火が大きな被害をもたらした。火を消すとは、当時はガスが普及しておらず、七輪やかまどで煮焚きしていた時代の教訓だ。今では、ガスのマイコンメーターが震度5強相当以上を感知したなら、ガスは自動的に遮断される。だから、ガスの火を使っていても地震が来たら、まずは安全な場所を確保し身を守るべきであると行政のアナウンスも修正されている。
しかし、マイコンメーターが普及して久しい2015年の時点でも、対応方法のすり合わせが充分になされていなかったというわけだ。

防災の進化論

最近では、長周期地震動という揺れ方が注目されている。超高層マンションがものすごい勢いで増えたことが原因だ。また、複数回の大きな揺れが襲ったらどうすべきかということも議論され始めている。

海溝型地震の南海トラフでは、複数回の巨大地震が連続して発生する「半割れ」が話題になっている。過去300年間に発生した南海トラフの5回の大地震のうち4回が「半割れ」で複数回の巨大地震が襲ったからだ。

断層型地震を想定している首都直下型地震では、いくつかの断層が時間をおいて連続的に大きな揺れを引き起こす可能性が高いともいわれる。熊本の大きな前震と本震のような発生の仕方なのだろう。熊本の震度6強の前震ではマンションの住民の多くが在宅避難をしたが、2日後の震度7の本震ではマンションはもぬけの殻になった。「在宅避難」が基本であるとわかっていても、度重なる大きな揺れで「自宅に留まるのは危険だ」という心理が浮上したからだとも考えられる。

普遍的な防災の原則は変わらないにしても、発生回数や揺れ方の違いなど、常に新たな情報を理解し、対策を練る、考えておく、そんな防災の進化論を理解しておくべきだと、あえて具体策は論じず、問題提議をしておこう。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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