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2024.1.10

マンションコミュニティ、挨拶に加えたもう一言「いってらっしゃい」

コミュニティ

マンション内の挨拶は、コミュニティ形成の第一歩というのは本当?

挨拶は、コミュニティ形成の第一歩と言われる。これはマンション内に限った話ではないだろう。互いに挨拶をし合うだけでも気持ちが良いという人もいるだろうが、コミュニティ形成の観点から見れば、挨拶はあくまできっかけにしか過ぎず、挨拶だけでは相手との距離をそれ以上に縮めていく感覚はない。挨拶にはじまり、続いてもう一言交わせるかどうかが、人とのつながりを濃くしていき、いずれ立ち話のできる関係性を構築するポイントなのではないだろうか。

私は、いまのマンションに引っ越して気付いたことがある。このマンションでは、エレベーター内で”乗る時の挨拶“と、”降りる時の声がけ“の2種類が存在するということだ。単身者の部屋が少なく、エレベーターは2機あり、階数も12階まであるからか、エレベーターでマンション内の誰かと遭遇する確率は高い。そして、その時に遭遇した、名も知らぬ相手と数秒間の時間を共有する。

具体的には、乗る時の「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」という挨拶、また、相手が先に降りる時で夜間だった場合の「おやすみなさい」という声がけだ。

「おやすみなさい」──これは、なんだか一気に家族のような身近な存在を印象づける。共に同じ建物内で暮らす者同士だから感じられる身内感の言葉ではないか。

とはいえこの「おやすみなさい」を添える文化は、マンション内に特定されているわけではない。友人との電話を切る際、戸建てを含むご近所の方となど、多くの人が同じ言葉を使っていると改めて気づいた私は、たまに無言でエレベーターから出ていく相手に対して、私から先に「おやすみなさい」と声をかけて、さらなる定着への仕掛け人になろうとも思っている。こうやって連鎖が生まれていってほしいものだ。

挨拶に続き、もう一言を交わすエピソード

以前に、1階でエレベーター待ちをしていると、ある女性がやってきた。その女性は、集合郵便受けから向かってきて、手元にはなにやら郵送物を手にしていた。私たちはどちらからともなく「こんばんは」と交わしあい、ちょうどエレベーターの扉が開いた。乗り込むやいなや、女性は間髪いれず、まるで旧友だったかのように、私に話しかけてくるのだ。

65歳となり国民健康保険加入の手続きをしたら、この案内が届いたけれど金額に驚いたわ、という内容だった。女性の部屋がある階に着くまでのわずか30秒の会話。同じマンションに住んでいるというプロフィール以外、お名前どころか部屋番号も知らなかったが、思わぬ形でご年齢を知ることになった。初対面の私に対してここまでプライベートな話をするのかと驚きながらも、これもこのマンションの文化なのだろうと温かい気持ちになり、最後は「おやすみなさい」と笑顔を交わした。

それ以降、何かのきっかけを見つけると、居合わせた相手とエレベータートークをするようにしている。吠えているペットを抱えたご夫婦は、先に乗っていた私に申し訳なさそうに乗り込んできたので、「ワンちゃん、お名前は?」と聞くと、次郎くんだった。「次郎くん、元気でいいですね」と返し、「次郎、よかったね」とペットを囲んだ会話が成立したところで、1階に到着。

別の日には、車いすの娘さんを連れたお母さんが先に乗っていた。私の乗るスペースもあったので、「ご一緒してよろしいですか」と乗り込んだ。1階で降りる時には、私が開くボタンを押して、先に出ていただいた。「すみません」と詫びるお母さんに、「ごゆっくりどうぞ!」と声をかける。いずれにしても、ささいな会話のやりとりだが、こういった目に見えないものが、マンションの雰囲気というか安心感というか、住まう価値のひとつになっているのかもしれないと思う。

エレベーターを出る時、「おやすみなさい」以外には?

時には、エレベーターを先に降りる際に「失礼します」と会釈して出ていくスーツ姿の男性に出会うこともある。「ここは会社じゃないよ!」と心のなかでツッコミを入れながら、「おやすみなさい」と返すのが私の定番だ。しかし、夜の「おやすみなさい」以外に私のレパートリーがないことに気づく。朝や昼間に、挨拶以外でかける最適な言葉が見つからずにいた。

この話題をいろいろなところで出していたら、ある大学生から名案を教えてもらった。それは、「いってらっしゃい」という言葉だ。とあるテーマパークのスタッフが、お客様と別れる時にかける言葉だという。たしかに、そのテーマパークでは、お会計が終わったあと、道を聞いて回答があったあと、アトラクションに乗り終わったあと、いずれも最後は「いってらっしゃい」という声がけがある。これもまた、アットホームな感じがして好印象だ。さっそく私は、朝にマンションのエレベーターで一緒になった小学生たちに、開ボタンを押しながら、「いってらっしゃい」と伝えてみた。振り向く子もいたが、残念ながら総じて反応は薄かった。これもまた、定着が必要なのだろう。細々と、ひとり「いってらっしゃい」運動を始めている。

この記事の執筆者

大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

大野 稚佳子

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