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2024.4.24

マンション居住者は、避難所を使えないって本当!?

防犯・防災



この度の令和6年能登半島地震で被災された皆様、4月17日に愛媛県と高知県に被害をもたらした地震で被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げますとともに、皆様の安全と被災地の一日も早い復興をお祈り申し上げます。
 



「マンションの居住者は、避難所を使えないんですよね」「マンションの居住者が避難所を使えなくなったのはいつからですか?」 セミナーなどの場でこうした質問を受けることが多い。
行政のホームページには、「マンションは在宅避難が原則です」といった説明がなされているし、マンション向けの防災マニュアルも、在宅避難を前程とした内容になっている場合が多い。
東日本大震災で被災したマンション居住者にヒアリングをした際にも、「マンションにお住まいの方は、ご自宅にお帰りください」というアナウンスがあったと伺った。
分譲マンション居住者の避難所の利用について、一部で誤解が生じているようだ。そこで本稿では「避難所」の種類と役割をあらためて確認し、在宅避難の在り方についても考えたい。

避難所や避難場所の種類

まずは、災害時の避難に用いる場所などについて整理したい。避難場所は次の3つに分けられている。
(1)指定緊急避難場所
(2)指定避難場所
(3)福祉避難所

(1)の指定緊急避難場所は、一時的に避難する場所。(2)指定避難所(一次避難所)と(3)福祉避難所(二次避難所)は、一定期間の避難生活をする場所とされている 。

(1)指定緊急避難場所
地震などの災害が発生した場合に、火災や土砂災害、その他の危険から身を守るために、一時的に避難する施設や場所のこと。指定緊急避難場所の多くは、河川敷や大きな公園、公共の施設など広い場所が指定されている。海沿いなど津波の危険性がある地域では、津波避難ビルを「津波一時避難施設」として指定している自治体もある。

(2)指定避難所(一次避難所)
指定避難所は、災害の危険性がなくなるまでの必要な期間滞在する、もしくは災害によって自宅で生活を続けることが困難な場合に滞在することができる施設のことで、小中学校の体育館などの公共施設が指定されていることが多い。よく、発災直後にテレビなどで盛んに避難所の映像が報道されているが、これは指定避難場所である。

<指定避難所の基準>




災害対策基本法施行令

1.避難のための立退きを行った居住者等又は被災者(次号及び次条において「被災者等」という。)を滞在させるために必要かつ適切な規模のものであること。
2 速やかに、被災者等を受け入れ、又は生活関連物資を被災者等に配布することが可能な構造又は設備を有するものであること。
3 想定される災害による影響が比較的少ない場所にあるものであること。
4 車両その他の運搬手段による輸送が比較的容易な場所にあるものであること。
 

 

(3)福祉避難所(二次避難所)
福祉避難所は、区立小中学校などに設置される上記の指定避難所での生活に支障が生じる高齢者や障がい者、その他の特別な配慮を必要とされる避難者を対象とする避難所である。平常時は入所や通所の社会福祉施設となっており、災害時に行政の要請に基づいて開設される。従って、福祉避難所としての開設は災害発生後から数日後となる。原則としては、災害の直後から利用することはできず、一旦は指定避難所(一次避難所)に避難することとなる。ただし、福祉避難所を利用する者は、一般避難所での避難生活が難しい場合があるため、あらかじめ福祉避難所の受入れ対象者を特定しておき、要配慮者が日頃から利用している施設へ直接避難することができるための手配が進められている※。

※ 内閣府:「福祉避難所の確保・運営ガイドラインの改定(令和3年5月)」

<福祉避難所の基準>




災害対策基本法施行令

「指定避難所の基準」である上記の1から4に加えて、以下を満たすもの
5 主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下この号において「要配慮者」という。)を滞在させることが想定されるものにあっては、要配慮者の円滑な利用の確保、要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制の整備その他の要配慮者の良好な生活環境の確保に資する事項について内閣府令で定める基準に適合するものであること。

 
 

内閣府令(令第二十条の六の内閣府令で定める基準)

第一条の九 令第二十条の六の内閣府令で定める基準は、次のとおりとする。
一 高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下この条において「要配慮者」という。)の円滑な利用を確保するための措置が講じられていること。
二 災害が発生した場合において要配慮者が相談し、又は助言その他の支援を受けることができる体制が整備されること。
三 災害が発生した場合において主として要配慮者を滞在させるために必要な居室が可能な限り確保されること。
 

 

上記3つの避難所を整理すると、下記の図のようになる。

マンション居住者も避難所を利用できる!

東日本大震災以降に、分譲マンションに居住する人は、在宅避難をしてほしいと言われることが多くなった。避難所ではプライバシーも確保されないし、暑さや寒さの対策も不十分であるので、災害に伴う不便(水道や電気などの途絶)があったとしても、マンションの自室で避難生活を送る方がよいという考え方が発端となっている。大災害の発生時には、避難所の収容人数が圧倒的に不足することも背景になっている。
ただし、指定避難所には、次のような役割がある。

①災害時から比較的短い時間において、災害の危険から身を守る
②自宅において生活することができない場合に滞在することができる

つまりマンションの居住者にあてはめて考えると、こうである。

①災害の危険性が去るまで指定避難所を利用することができる
②マンションに被害が生じるなどして、自宅で生活をすることが困難であれば、避難所に滞在することも可能である

冒頭に紹介した「マンションにお住まいの方は、ご自宅にお帰りください」という案内も、災害直後の窮迫の事態は過ぎたので、地震において損壊することが少ないマンションに住む人に対し、滞在には移行せずに、在宅避難を求めているということになる。

マンション居住者で配慮を要する人については、マンションに戻らずに指定避難所を利用する方が望ましい場合もあるし、福祉避難所に移動することもあるだろう。

そもそも、災害時に避難をするのは、分譲マンションや戸建てといった「建物」ではなく、「ひと」である。そのひとの状況によって避難所を利用したほうが良いか、在宅避難が良いかは異なってくる。分譲マンションにおける在宅避難は絶対ではなく、マンション居住者も、必要に応じて当然に避難所を利用することができる。

在宅避難を原則とする落とし穴

現行の建築基準法の耐震基準は、想定される地震の力に対して、倒壊などが生じて、死傷しないことを目途としている。地震で被害を受けた建物で継続して生活をすることまで求められているものではない。つまり、現行の耐震基準(新耐震基準)で建てられたマンションであっても、地震の被害を受けた後に、常に在宅避難が可能になるわけではない。筆者が、熊本地震後の被災地を調査した際には、構造体に大きな損傷を受けた新耐震基準のマンションで、倒壊の危険性が危惧される状況で、在宅避難を続けているのを見たことがある。在宅避難は常に正しいわけではなく、倒壊の危険があれば、指定避難所に避難すべきだ。

地震の場合には、マンションの被災の程度を確認して、在宅避難が可能かを判断することが求められる。これは、マンションの居住者個々人が判断すると、前述の熊本地震のような危険な事態を招く事例もあるので、あらかじめ管理組合ごとにルールを定めておいて、そのルールに沿って理事会等で判断を行い、居住者に通知することが望まれるだろう。本件に関連して、平成28年度の「国土交通省のマンション管理適正化・再生推進事業」において、大規模災害の対応ルールとして、共同研究者の梶浦明裕弁護士と筆者は、マンションの管理規約・細則等で定めておくべき事項を解説し、具体的な規約案などを示している※。在宅避難を想定した防災マニュアルを定める管理組合は、この考え方をぜひ参考にしてほしい。

平成28年度 国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」
激甚災害に物理的・心理的に被害をうけた実例

第3章 第3節 大規模災害対応型ルールについて/田中昌樹・梶浦明裕
 

避難所をどのように捉えるのか

巨大な災害の発生時には、避難所の収容人数は足りなくなることが多いので、結果的に、建物に大きな被害を受けた戸建てや木造アパートの居住者が避難所を利用し、分譲マンションの居住者は利用することができなくなる。このように言うと、「不公平」を言う人がいる。「同じように税金を払っているのに避難所を利用できないのはおかしい」と言う。

ここでは、避難所をどのように捉えるかが課題となる。筆者は、避難所の電車の優先席のようなものと考えている。朝のラッシュ時の通勤電車に全員が座ることはできない。そうした時間帯に配慮を要する方がいれば、優先席を譲るべきだろう。一方で、配慮を要する人がいなければ、健常な方も優先席を使えば良い。

こうした優先席のようなセーフティネットは、それを必要とする人にもれなく届くことが重要であるが、全員を対象とし、行きわたるものではない。避難所も同じであり、不幸にして自宅を奪われた方や配慮を要する方が優先的に使うものであって、すべての被災者を対象としたものではない。

ただし、不公平感の解消ではないが、近年は避難所の収容人数の不足を背景に、行政がマンション居住者の在宅避難を推奨しているので、マンションに対する防災マニュアルの作成支援や補助などはより一層拡充されることを望みたい。

この記事の執筆者

田中 昌樹

マンションみらい価値研究所研究員。一般社団法人マンション管理業協会出向中。現在は、マンションみらい価値研究所にて、防災・減災に関する統計データの活用や居住者の高齢化や災害の激甚化などの社会的な課題について、調査研究や解決策の検討を行っている。

田中 昌樹

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