HOME > コラム > 【世界のマンション ~台湾編~】日本から近い国「台湾」マンション管理は全然違う?

2024.5.8

【世界のマンション ~台湾編~】日本から近い国「台湾」マンション管理は全然違う?

組合運営のヒント

サステナビリティ

2024年4月3日、台湾花蓮県沖を震源として発生した花蓮地震により、お亡くなりになられた方々とそのご家族に心からの弔意を表し、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
※なお、本コラムは震災前に訪台し、2024年3月中旬に執筆したものとなります。
 



 

マクロ経済で見る台湾

2024年1月に総統選挙があり、与党・民主進歩党 頼清徳氏が当選したことで中国との緊張が高まるなど、世界的にも注目を集める台湾。

そんな台湾の面積は、約3万6千平方キロメートルであり、九州よりやや小さく、人口も約2,342万人(2024年1月時点)と、日本の約5分の1程度である。
しかし、一人当たりの名目GDPは32,625USドル(2022年台湾行政院主計処)※であり、近いうちに日本を追い抜くとも言われている。

日本からの旅行先としても人気の高い台湾だが、以前のような「物価が安い」というイメージからは離れつつある。

※外務省HP_台湾基礎データ よりhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taiwan/data.html

台湾の街

台湾の街を歩くと、室外機がむき出しで、後から付けられたようないびつな形のベランダ(のようなもの)が各住戸に付けられているマンションを目にする。
都市部の街並みは日本と似ている印象を受けるが、ひとつ路地を入ると、日本にはない光景を目の当たりにする。

また、台湾には、建物の上にトタンで部屋が建てられているなど、違法に増改築されている建物も存在している。建築が完了したマンションで、売り出された後にさらに上層階が建設され、2018年の地震によって倒壊したことで問題となった事例もある。

(写真左)各住戸で自由にバルコニーを設置・改造しているマンション、(写真右)室外機がむき出しになっているマンション

台湾における昨今の分譲マンション事情

人口が集中する都市部(台北)の居住形態は、アパートやマンション、コンドミニアムが一般的である。近年では、経済成長に伴い数多くの高級タワーマンションが軒並み建設されているのは日本と同様だ。

タワー型の団地マンション

台湾には「マンション法(日本でいう区分所有法)」と「民法物権」に二重規定がある。「マンション法」では共用部分の改良等に関する規定があり、それによると、バルコニーは共用部分であることから居住者は勝手にリノベーションをすることができない。先程の写真のように、各居住者がバルコニーに鉄格子などを“自由に”設置しているものは、法律制定前に建てられたものだ。

法律制定後に建設されている都市部の高級マンションは、日本と同様、居住者がバルコニーを自由にカスタマイズしているケースはなく、植物などが置かれている程度だ。

都市部にある高級マンション 共用部分にジムやプール、サウナがある

台湾のマンションは建設された後、「スケルトン」で売り出されることが一般的である。スケルトンとは、建物を支える柱・床などの構造駆体のことを指し、構造駆体のみで販売されることがスケルトン販売である。ここは日本とは大きく違うところ。

つまり、購入者が間仕切りや水回りなどの内装を自身で設置するということであり、その点においては台湾のほうが内装の自由度が高いことがわかる。その自由度の高さを楽しめる反面、日本では一般的に行われる雑排水管の一斉清掃などは、台湾では実施されていないという不便さもある。その理由は、内装が各住戸ばらばらであり、住戸ごとに水回りの位置や仕様を確認する際のコストや時間を考えると、一斉清掃は得策ではないのかもしれないからだ。

「予防保全ではなく、事後保全」 

台湾のマンション修繕に関する考え方は「事後保全」だ。そのため、日本でいう「長期修繕計画」はほとんど用意されていない。長期的にマンションを維持する計画がないため、日本のように、将来の修繕に要するお金が積み立てられていることもない。

都市部の雑居ビル

予防保全では、「何かが起こる」前に補強・更新をする。日本ではこういった対応が一般的だ。しかし、台湾では「何かが起こった」後に対応する事後保全の考え方が一般的で、復旧工事を含めて突貫工事になりがちだ。監視カメラの配線がむき出しで天井から垂れている、といったマンションもあった。日本と違って「終の棲家」という考え方がないからだろうか、マンションの「将来」よりも「今」を考えた対応が見受けられる。
 
その考え方は、歴史的背景が関係しているのかもしれないと予想する。というのは、台湾はオランダが占領して以降、数国に攻められた歴史があり、また、中国とは長い間緊張状態が続いている。いつ、何時、自分たちの国が他の国の影響を受けるかもしれないという意識から、国民は「住まい=長い安定」といったような考えにならないのかもしれない。
 
しかし、「今」だけを考えて管理が行き届かない状況が続けば、建物や設備の高経年化は当然進み、より一層深刻な問題になってくるのは火を見るより明らかだ。「今」だけでなく「将来」を考えて、建物を管理していく必要があることを改めて痛感する。

居住者の環境意識が高い 「みんなでSDGs!」

訪れたマンションでは、配送に使われる梱包材を回収するボックスをエントランスに設置していた。梱包材のビニールやプラスチックを回収し、リサイクル業者にまとめて引き渡して再利用する、という取り組みが行われているのだという。 

また、マンションのエントランスロビーには、SDGsや環境に関する取り組みを表彰する楯や賞状が飾られており、日本よりもSDGsに積極的な印象を受ける。

エントランスロビー飾られた表彰状

環境に関する取り組みが活発な背景には、行政による「優良マンション認定」という制度があるからだ。管理状況等を総合的に判断した認定が行われ、インセンティブが支給される。その評価項目の中に「環境への取り組み」が入っているのだ。

つまり、日本でも「マンション管理適正評価制度」において、「環境に関する取り組み」を評価する指標を入れることで、マンションごとに環境に配慮した取り組みが促進される可能性がある。
 

最後に

一人当たりのGDPでは日本に近い状態で、しかも日本企業が多く進出していることからも、日本のマンション管理事情に似ているのではないかと思われる台湾だが、実は歴史的背景などを含む国民意識の違いから、マンションに対する考え方や取り組み方が大きく違っていることが、おわかりいただけただろう。

参考になる事例として挙げた「環境への取り組み」の推進などは、日本でも今後取り入れるべきではないかと思う。

また、将来的には台湾でも日本と同様に、建物の高経年化が深刻な問題になってくるだろう。いかに早く、「事後保全」から「予防保全」というマインドシフトを起こし、計画的な管理を開始できるかが重要だと考える。日本のマンション管理は「長期修繕計画」が整備され、居住者は修繕積立金を蓄えている。そういった「予防保全」のマンション管理を行う日本だからこそ、台湾に提供できるサービスや情報があるかもしれない。

この記事の執筆者

諸富 敬侑

2020年大和ライフネクスト株式会社入社。組合会計業務に従事する傍ら、大規模なオフィス移転等、さまざまなプロジェクトを推進。社内提案制度において、業務効率化を図る施策を提案し、入社2年目で最優秀賞を受賞する。現在はマンションに関する事業を企画・推進する部署に所属。

Related post

2023.6.22

コラム

【世界のマンション~韓国編~】韓国のマンション、コミュニティ活性化が課題

2022.11.17

コラム

【世界のマンション ~中国編~】びっくり?!中国の分譲マンション

2023.5.11

コラム

【世界のマンション ~インドネシア編~】「テロに宗教」こんなに違う“マンション”事情

2024.4.17

コラム

【世界のマンション~アメリカ編~】 理事になりたい人が殺到!? アメリカ ロサンゼルスのマンション