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2022.12.8

緊急調査 バルコニーからの幼児転落事故をうけて
~室外機置場が事故の原因となる可能性を探る~

マンションを取り巻くリスク

緊急調査 バルコニーからの幼児転落事故をうけて ~室外機置場が事故の原因となる可能性を探る~

 2022年11月、あるマンションで幼児がバルコニーから転落し、死亡するという痛ましい事故が発生した。今回のケースでは、バルコニーに置かれた椅子が踏み台となったのではないか、出窓が開いていたのではないかという報道がされている。一般的な管理規約ではバルコニーは専用使用権がある共用部分であるため、固定された物を常設することは禁止されている。しかし、エアコンの室外機置場は例外として、認められているケースが多い。マンションにおける子どもの転落事故は近年相次いでおり、こうした事故を発生させないために、マンションのバルコニー、特に室外機置場に注目してそのリスクを検証した。

1.バルコニー手すりと室外機置場

 写真はバルコニーに縦に置かれた室外機である(図1参照)。バルコニー手すりの高さが1,200mm、室外機の高さが620mm、その差は580mmである。

図1

 厚生労働省「21世紀出世期縦断調査(特別報告)」によれば、2歳児から3歳児の平均身長は約90㎝から100㎝である(表1参照)。

表1

 つまり、エアコンの室外機は幼児が登ることができるサイズであることが多く、バルコニーから転落する要因となり得るのである。実際、過去にはエアコンの室外機を登った子供が転落する事故も発生している。

2.東京都近郊のある市区における室外機置場の設置状況

 東京近郊のある市区における当社受託管理マンションの室外機置場の設置状況を販売パンフレットから調査した。室外機置場は天吊り型、床置型に分類され、パンフレット上では室外機置場の指定のないマンションもあった(図2参照)。

図2

①天吊り型室外機置場の安全性

 天吊り型とは、バルコニーの天井部分からエアコンの室外機を吊り下げる方法である(図3参照)。
 

図3

 天吊り型では幼児が登ってしまう心配はない。この天吊り型は概ね2000年を境にして床置型に変わっている。天吊り型は築20年以上を経過したマンションに多くみられる型であることがわかる(図4参照)。

図4

 また、階数別に設置状況をみると、15階以上では天吊り型の設置はない(図5参照)。

図5

 天吊り型が設置されているマンションでは、バルコニー幅が狭く(900mm以下)避難ハッチや物干し金物を配置すると室外機置場を確保できないケースが多い(図6、図7参照)。
 

図6、図7

 2000年以降、天吊り型室外機置場が床置型に変わっていったのは次のような理由ではないかと考えられる。

 ア.バルコニーの大型化
  2000年当時から、新築マンションではワイドバルコニーと呼ばれる幅2,000mmを超えるマンションが増加し、販売広告でもバルコニーの広さがうたわれるようになった。バルコニーに室外機を設置できる十分な広さがあれば、天吊り型にする必要はない。
 イ.室外機の大型化
  エアコンの室内機は小型化しているが、室外機は大型化しているというデータがある(図8参照)。電化製品は時代とともに小型化するような印象があるが、室外機に関しては逆のようである。

図8

 天吊り型の室外機は天井から窓サッシまでの間が縦の最大寸法となる。これを超えた大型室外機は吊り金具の中に納まらなくなる。「エアコンを買い換えたら室外機が入らない。」「以前のマンションでは室外機が置けたのに、引っ越してきたら室外機が入らない。」などの居住者からの相談もある。
 天吊り型は、室外機置場が足掛かりとなる可能性はない。しかし、エアコンの大型化により吊り金具の中に室外機を設置できない場合、床置きに変更する必要が生じる可能性がある。こうなると、子どもが踏み台にして登ってしまうリスクがある。バルコニーが狭く、室外機と手すりの間の幅が十分でない場合と、その危険性はさらに高くなる。
 つまり、管理組合としても室外機置場が天吊り型であるから子どもの落下防止は考えなくともよい、などと安心はできないことになる。

②床置型室外機置場の安全性

 床置式室外機置場は、室外機と手すりとの間に十分な幅が確保できている。しかし、販売パンフレットを確認すると、中には十分な幅があるとは言えないケースも2例あった。いずれの場合もバルコニーが長方形ではないケースである。

 ア.バルコニーが円形である事例
  円形のバルコニーに四角形の住戸を配置すれば、幅が狭くなる場所が生じる(図9参照)。
 なお、人が立ち入ることができないように施工されている可能性もある。実際のバルコニーは確認していない。
 イ.バルコニーが三角形の場合
  角部屋にみられる形状である。バルコニーの形状が変形しており、手すりとの間隔が狭くなっている。

図9

 今回の調査マンション棟数66棟、戸数合計4,947戸のうち、2棟58戸(約1.1%)で十分な幅が確保できているとは言えない室外機置場の形状がみられた。

3.室外機の設置状況のわかりにくさ

 マンションの外周からバルコニーに設置された手すりの上部は確認できても、下部は確認しにくい。床置式室外機置場の状況や、天吊り型室外機置場に設置できずに床に置いている室外機がどれくらいあるのかを把握することは困難であり、室外機置場の外からリスクは見えにくいのである。
 こうしたことから室外機置場の状況は理事会などでも話題になりにくい。今回の事故をうけて、管理組合としてもパンフレットなどを確認し、室外機置場の指定場所における転落事故発生のリスク、指定場所以外の場所への設置状況を確認し、危険性が認められる場合には具体的な対策を講じる必要があるだろう。ひとたび事故が起きれば、マンション全体が報道のカメラに晒される可能性もある。
 
以上

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

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