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2023.11.22

理事にならないと罰金?!  〜役員のなり手不足はここまできた「管理組合役員辞退協力金」の実態〜

組合運営のヒント

理事会・総会

理事にならないと罰金?!  〜役員のなり手不足はここまできた「管理組合役員辞退協力金」の実態〜

 理事のなり手不足の解消にはさまざまな方法がある。例えば役員報酬を支払う、役員の定数を減らす、外部専門家を役員に選任するなどである。インターネット記事などにも、こうした方法は紹介されている。しかし、実はもうひとつ、あまり知られていない方法がある。それは、役員を辞退する区分所有者に対して費用の負担(以下、「役員辞退協力金」とする)を求めるというもので、実際に採用している管理組合がある。

1.役員辞退協力金とは何か

 当研究所では以前、マンション所在地以外に居住する外部区分所有者に対して支払いを求める「外部区分所有者協力金」と、役員に就任した区分所有者に対して報酬を支払う「役員報酬」の実態について調査報告をしている。(参考文献※1、※2)
 今回調査した「役員辞退協力金」は、それらとは似て非なるものだ。

 外部協力金は、マンションに居住していないために管理組合資料の郵送費がかかる外部区分所有者に対し金銭的な負担を求めることで、現に居住する区分所有者との公平性を担保しようとするものである。
 一方で役員辞退協力金は、マンションに居住しているかどうかにかかわらず、役員を辞退しようとする場合に負担を求めるものである。「役員を辞退すること」が支払いの条件となり、「外部区分所有者であること」を支払いの条件にしている外部区分所有者協力金とは性格を異にする。また、たとえ役員に就任したとしても理事会に出席しないなど、実態としては辞退と変わらない場合も役員辞退協力金の対象に含むといったルールを制定している例もある。
 また、役員報酬の制度は「賞」的な意味を持つことに対し、役員辞退協力金は「罰金」(注1)的な意味合いを持つ。

 なお、管理組合が役員を辞退した区分所有者から協力金などの名目で一定額を徴収することを総会で決議しようとする場合、何らかの理由で決議に反対する区分所有者からも、決議に基づいて強制的に徴収することが可能なのか、特別の影響にあたり本人の承諾を得る必要があるのか、といった法律上の解釈などは本レポートでは触れないことにする。管理組合役員に就任しない外部区分所有者や管理組合役員の就任を辞退する者への費用負担についてはいくつかの裁判例があり、係争に結びつきやすいことは承知している。本レポートでは、それでもなお、導入に踏み切っている管理組合の取り組みについて論じたい。

注1)罰金とは刑法に抵触した場合に国が課すものであるが、俗語として「悪いことをした場合に徴取される金銭」という使われ方をしている例がある。本レポート中で使用している「罰金」とは俗語の使い方である。

2.役員辞退協力金の導入数

 当社が管理を受託する3,946の管理組合のうち、役員辞退協力金を導入している管理組合は134件あった。前述のレポートで調査した役員報酬の支払いがある管理組合368件(参考文献※1)、外部区分所有者協力金を徴収している管理組合231件(参考文献※2)と比較すると、その数は少ない。

3.役員辞退協力金が導入された時期

 役員辞退協力金は、管理組合が結成されてからどのくらいの年数が経過すると導入されるのだろうか。導入されたときの築年数は次の通りである(図1参照)。
 なお、築5年未満に導入されている事例でも、原始規約から役員辞退協力金が規定されていたケースはない。すべての事例において、管理組合設立後に総会の決議によって導入されている。
 築15年程度を経過すると居住者の高齢化が進み、理事のなり手不足が深刻化することは容易に想像できるが、築10年未満の時期に導入されているマンションもある。もはや理事のなり手不足は、築年数の経過したマンションだけでなく、すべてのマンションにおける共通の課題になっていると言えよう。

図1

4.役員辞退協力金の額

 役員辞退協力金の額は、年間3万円以上4万円未満が最も多い。中には10万円以上という高額のマンションもある(図2参照)。

注2)次回輪番制で理事に該当するまでの全期間を辞退した場合、途中で理事に就任した場合は減額となる。

図2

5.役員辞退協力金の規定

 役員辞退協力金は具体的にどのように管理規約、使用細則に規定されているのかを調査した。規定は大きく次の3つに分類される。
 ①辞退の要件を定めず、候補者の意思表示により辞退できる。この場合に辞退者は役員辞退協力金を支払う。
 ②辞退の要件を定め、要件にあてはまる候補者は届出により辞退できる。辞退者は役員辞退協力金を支払う。要件にあてはまらない候補者が辞退することは認めない。
 ③辞退の要件を定め、要件にあてはまる候補者は役員辞退協力金を支払わずに辞退できる。要件にあてはまらない候補者が辞退する場合は、役員辞退協力金を支払う。
 上記を表にまとめると次のようになる(表1参照)。特定の条件にあてはまる場合に、役員辞退協力金の支払いが②と③で反対となる点に注目してほしい。

 ②と③では、役員に就任する人の前提条件が異なっている。
 ②は区分所有者全員が役員に就任することを前提としている。理事会の心情としては「個人の事情を考慮してはきりがないから、役 員の辞退は認めない。ただし年齢、健康状態、家族構成などやむを得ない理由がある場合には辞退を認めよう。その代わり金銭の支払いをしてもらおう」と言うことだろう。
 反対に、③は個別要件を金銭免除として認めている。「役員を辞退したいという個別事情は認めよう、その代わりに金銭の支払いをしてもらおう。ただし年齢、健康状態、家族構成などのやむを得ない理由がある人に対しては金銭の支払いは免除しよう」と言うことだろう。
 こうした年齢、健康状態、家族構成などの条件について規定のあるマンションは②と③の合計で29.1%であった。(図3参照)

図3

具体的な管理規約、使用細則の記載を紹介する。

事例(②のマンション)

 役員を辞退をすることは認めない。ただし、以下の事由によりやむを得ないと理事会が認めたときは、特例として役員辞退協力金を支払うことにより辞退を認める。辞退条件に該当しなくなった場合は、再び輪番制による役員選出対象となる。
 1.重度の介護を要する者が居住をともにする場合で、かつ成人の介護者が一人の場合
 2.母子または父子家庭で中学生に満たない子供が一人でもいる場合

事例(③のマンション)

 役員資格要件は組合員、組合員本人の成人した二親等以内の代理人とし、居住・非居住を問わないものとする。
 1.組合員本人、代理人が役員に就任できない場合は、協力金を支払うことにより辞退することができる。
 2.以下の理由がある役員辞退を希望する組合員は協力金の支払いを免除することを理事会に申し出ることができるものとする。
 ● 組合員本人が75歳以上で、身体的、精神的に役員業務が困難な場合
 ● 組合員本人もしくは同居の家族に障害があり、役員業務に支障をきたす場合
 ● 組合員本人もしくは同居の家族が要介護状態であり、役員業務に支障をきたす場合
 ● 外部区分所有者の場合

上記②、③に該当するマンションでは、年齢、健康状態、家族構成等の理由があることを証明するために、理事会にそれら条件に該当することを示す書類を提出することとしている。
 75歳以上などの年齢条件の場合は免許証、パスポートなどの身分証明書、障害や介護などの身体的条件の場合は身体障害者手帳や医師の診断書になるだろう。
 さらに、母子家庭や父子家庭の場合は戸籍謄本により配偶者と死別か離婚をしていること示さない限り、例えば単身赴任で配偶者が長期不在である家庭との区別は難しい。
 本人の立場に立って考えると、障害者手帳や戸籍謄本を管理組合に提出しようと思うだろうか。また、それを受理した理事会ではこのような機微情報に該当する個人情報を誰が確認し、どのように保管するのだろうか。
 万が一、個人情報が漏洩したときの責任は大きい。他人の機微情報はむしろ見たくない、知りたくないという理事もいるだろう。
 規定を作成するときに「不正な申告をして役員の就任を逃れる者を許さない」という心理が働くのは理解できるが、審査規定を厳しくすればするほど、その情報の取り扱いについても厳格に規定する必要が生じる。機微情報の取り扱いが増えると、むしろ理事会の負担を増加させることにつながりかねない。

6.役員辞退協力金の支払い期間

 役員辞退協力金の支払い期間はおおむね次の3通りである。
 ①輪番表に基づき、役員の就任年となったが役員を辞退する場合、役員を就任すべきであった期間(1年任期の場合は1年間)支払う。
 ②輪番表に基づき、役員の就任年となったが役員を辞退する場合、次の輪番までの期間(10年に1度、役員就任の番が巡ってくる場合は10年間)支払う。
 ③役員を辞退することを認められた区分所有者は、輪番表から削除する。役員に就任できるようになれば輪番表に戻し、次期役員に就任する。輪番表から削除されている期間、支払う。
 上記を表に示すと次のようになる(表2参照)。

表2

 支払期間は、①が79.1%と最も多い(図4参照)。なお、②では、当番の期に辞退したものの、次回輪番が巡るまでの間のいずれかの期に役員に就任すれば、それ以降の支払いは免れるという規定があるものがほとんどである。
 ②と③は支払いが長期であるという点でより外部区分所有者協力金に近い考え方であると言えよう。

図4

7.理事会出席回数による支払い

 理事会への出席回数を役員辞退協力金の支払い基準に加えているマンションもある。役員に就任したものの、理事会にほとんど参加しない場合は、役員を辞退したこととなんら変わらない。そうした抜け道を作らないよう、出席率の低い理事からは役員辞退協力金を徴収しようというものである。こうした出席率に関する規定のあるマンションは24.6%であった(図5参照)。

図5

 出席率による役員辞退協力金の徴収は、手続きが煩雑になりやすい。
 例えば、理事会への出席率が50%未満の場合は役員辞退協力金を徴収するという規定のある管理組合があるとしよう。毎月開催していれば、年間12回となる。ここに、すでに5回出席している理事がいたとしよう。最終回の理事会に参加すれば役員辞退協力金の支払いはないが、欠席すれば出席率が50%未満となり支払いの義務が生じる。
 当該理事に役員辞退協力金の支払いを求める場合、その決議は理事会で行わなければならない。最終回の理事会が始まるまでこの役員が出席するか否かはわからない。当日の出欠状況を確認して、いくらになるのかを計算して、理事会で決議する、というのは難しいだろう。
 出席率の規定も、例えば「半数未満」であったり、「60%以下」「75%未満」であったり、その規定はさまざまである。また、役員辞退協力金に関しても、規定数に満たない場合に全額の支払いを求める管理組合もあれば、「役員辞退協力金(年間総額)÷理事会総開催回数×当該理事が参加した理事会回数=当該理事に対する請求額」というような計算式に基づき請求する管理組合もある。
 最終回の理事会で決議できない場合、その後の総会を経て新理事会にて決議してもらうしかない。しかし、新理事会は旧理事会の役員辞退協力金の支払いを求めるを決議することは心理的に難しいと思われる。請求をめぐって当該理事とトラブルになることは避けたいだろう。
 なお、調査対象のマンションにおいては、出席率不足で課金したケースは存在しなかった。「欠席すると支払いが生じる」という規定により、理事会を欠席した理事が減ったとも考えられるが、その真意までは不明である。

8.役員辞退協力金を廃止した管理組合例

 役員辞退金を廃止した管理組合もある。廃止に至る経緯は次のようなものである。
 築40年以上を経過したこの管理組合では、2年に1度、アンケート調査をし役員に就任できないと回答した区分所有者からは役員辞退協力金を徴収していた。ただし、高齢であることや健康上の理由による辞退の場合には役員辞退協力金(月額1,000円)の支払いを免除していた。(前述「役員辞退協力金の規定」の③に該当)
 しかし、築40年を超え、区分所有者の大多数が高齢者となり、ほとんどの住戸が辞退を希望するようになる。理事会役員は特定の区分所有者(4戸)で固定せざるを得ない状況となった。そうすると、今度はその特定の区分所有者に負担が集中し、新たな不公平感が生まれる。
 こうしたことから、役員の選任については「輪番制を復活させ、高齢であることや健康上の理由による役員辞退は一切認めない、それに伴い、役員辞退協力金も廃止する。」ことした。
 この管理組合では、区分所有者の負担軽減のために役員の定数を減らすなどそのほかの対応も行っているが、それでもなり手不足は解消されず、現在では、第三者管理者方式を導入し理事会を廃止することを検討している。

 この事例は、役員辞退協力金が理事のなり手不足の根本的な解決策にはならなかったことを示している。区分所有者のほとんどが高齢者になってしまえば、身体的、能力的な問題で理事への就任が困難な人ばかりになる。
 ここまで区分所有者の高齢化が進行すると、報酬や協力金など制度だけではどうにもできず、外部委託である第三者管理者方式しか選択肢はなくなるのかもしれない。

9.考察

 行動経済学の入門書などによると、報酬と罰金が人の行動に及ぼす効果について研究がされている。人が何かをしなければならないとき、報酬よりも罰金の方がより大きな動機となるとされている。
 しかし、これらは行動面での研究であり、その行動から生まれる成果については言及されていない。つまり、罰金制度を導入すれば理事会の出席率は上昇するかもしれないが、罰金を支払うのが嫌で理事会に参加する人が、理事会でよい成果を出そうとするだろうか。
 また、別の研究では、罰金を対価ととらえ、「お金を払ったのだから」とマイナスの行動について「ひけめ」や「遠慮」がなくなり、反対にマイナス行動が増加したというものもあった。置き換えると、役員辞退協力金を払えば、理事会には参加しなくてもよいというマイナス行動を助長することにもなりかねない。
 そもそも、管理組合という組織に罰金という規定は望ましいものではないと感じる。役員辞退協力金自体が「役員を引き受けるのは大変だ、役員をやりたい人など誰もいない」というマイナスの前提で制度設計がされている。
 役員のなり手不足を解決するには、報酬や罰金ばかりではなく、役員という仕事の価値を高め、「やってみたい」と思えるような役割にしていく必要があるだろう。

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

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