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2024.1.18

中古マンションの買主に管理情報が伝わらない理由

管理委託

管理規約・細則

中古マンションの買主に管理情報が伝わらない理由

1.中古マンション売買の流れ

 はじめに、不動産仲介業をあまりご存じでない方のために、マンションの売買の流れについて簡単に説明しておこう。
仲介会社は、購入検討客(売買契約締結後は買主、新区分所有者)の側に立ってマンション購入の交渉や手続きを行う「買主側」と、区分所有者(売買契約締結後は売主)の側に立ってマンションの売却のための交渉や手続きを行う「売主側」に分類される。また、1社で売主側と買主側の両方の立場に立って仲介することもある。マンションの購入について検討を開始してから引渡しを受けるまでの一般的な流れは、表1の通りである。

表1

2.検討段階で管理情報に触れることのできるマンションは40%以下

 買主に対して、検討段階でマンションの管理の状況を説明するできる機会があるとすれば、表1のうち「販売活動」と「現地見学」のフェーズであろう。2社でマンションの仲介をする場合、売買契約の締結日まで、売主と買主が直接話をすることはない。原則として買主は「買主側仲介会社」としか話をすることができない。つまり、買主が管理に関する情報を得ようとするなら、買主側仲介会社から売主側仲介会社に依頼して、売主や管理会社から情報を得る必要がある。買主が管理情報を得ようとするなら、実に3名(社)に話をつないでいく必要があるのだ。

概念図

 この段階で管理会社が、売主側仲介会社から依頼を受けて管理情報(重要事項調査報告書)を提供するのが、表1の「①」の発行である。
 管理会社が提供する重要事項調査報告書には、修繕積立金の状況や過去の修繕履歴など、中古マンションに必要な情報を記載している。
 売主、買主間の条件交渉が整い、売買契約を締結しようとする段階になると、仲介会社は重要事項説明を買主に対して行わなければならない。不動産業界の慣習により、重要事項説明書を作成するのは売主側仲介会社であることが多い。売主側仲介会社は、管理会社に対して「重要事項調査報告書発行依頼」をする。この依頼を受けて管理情報を提供するのが、表1の「②」の発行である。
 重要事項説明は、宅地建物取引業法上、売買契約の前に行うこととされている。つまり、同日の直前であっても構わない。多くの取引では、売買契約の締結と同日の直前に重要事項説明がなされている。
 契約の直前に管理に関する説明を受けたとしても、マンションを購入する判断材料とするにはあまりにも時間がない。
 
 買主がマンション管理について十分に検討し、売買契約締結の判断材料とするなら、「販売活動」の段階で売主側仲介会社が管理会社から重要事項調査報告書を取得し、その内容を買主側仲介会社に伝える必要がある。
 では実際のところ、売主側仲介会社は「販売活動」のフェーズで管理会社からどれほどの情報を取得しているのだろうか。
 
 当社管理受託マンションにおいて2022年度(2022年4月1日~2023年3月31日)に発行した重要事項調査報告書のうち、同一マンションの同一の住戸において発行した回数を調査した(図1参照)。
 重要事項説明が宅地建物取引業法上の対応であることを考えると、発行回数が「1回限り」である住戸は、売買契約締結の段階でのみ発行されたと考えるのが妥当だろう。「販売活動」に加えて「売買契約」の段階で取得したと考えるなら、少なくとも2回以上の発行がなされているはずである。
 なお、3回以上の発行は、例えば、販売期間が長期に及び、情報が古くなった可能性があるために再発行をした、不動産会社等が住戸を取得し、さらに別の第三者に転売をするなど複数の売買が繰り返された、などの理由が考えられる。
 発行回数が1回限りである住戸は、約60%であった。つまり、約60%のマンションでは、販売活動段階で買主に重要事項説明に関連する情報が伝わっていないと考えられる。

図1

3.仲介会社は数が非常に多く、会社ごとに管理情報への関心度合いが異なる

 当社に重要事項調査報告書の発行依頼があった仲介会社の割合を調査した(図2参照)。A社からE社はいわゆる業界大手と言われている会社である。この5社に全体の41.2%を発行している。この大手各社の中でも、発行回数にはばらつきがある(図3参照)
 また、国土交通省「令和4年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について」によれば、宅地建物取引業者数は、129,604 業者(大臣免許が2,922業者、知事免許が126,682 業者)あるとされる。これほどの数の会社があれば、管理情報の提供にどれほどの関心があるのかについて、各社ばらつきがあっても当然であろう。
 

図2、3

4.こんなに増加している開示項目

 国土交通省は、マンションを購入しようとする買主に対して多くの管理情報を提供すべく、マンション標準管理規約、マンション標準管理委託契約書などを改正してきた。2023年9月に改正されたマンション標準管理委託契約書において開示項目が追加され、項目数は110項目に及ぶ。
 しかし、どんなに開示項目を増やしたところで、約60%のマンションでそれらの情報が買主に伝わっていないのでは、買主がマンションの購入の際に管理状況を検討するには至らないだろう。
 中古マンション取引の際に管理状況が検討項目にならないのは、開示されている情報の量が少ないからではなく、情報に触れる機会が少ないからなのだと考える。
 参考に、110項目の一部を紹介しておこう。これだけの情報が買主に届いていないのは非常に残念なことである。

【開示項目例】
7 専有部分使用規制関係
① 専有部分用途の「住宅専用(住宅宿泊事業は可)」、「住宅専用(住宅宿泊事業
は不可)」、「住宅以外も可」の別(規定している規約条項)
② 専有部分使用規制関係
・ ペットの飼育制限の有無(規定している使用細則条項)
・ 専有部分内工事の制限の有無(規定している使用細則条項)
・ 楽器等音に関する制限の有無(規定している使用細則条項)
・ 一括受電方式による住戸別契約制限の有無
③ 専有部分使用規制の制定・変更予定の有無
13 管理事務所関係
① 管理員業務の有無(有(契約している業務内容)、無)
② 管理員業務の実施態様(通勤方式、住込方式、巡回方式の別及び従事する人数)
③ 管理員勤務日
④ 管理員勤務時間

5.管理情報を提供したくない仲介会社の本音

 仲介会社が管理情報の提供に積極的になれない理由は何だろうか。
 複数の仲介会社の関係者にヒアリングしたところ、次のような意見があった。
①建築関係の資料(修繕履歴や長期修繕計画)、決算資料(各種会計科目の詳細)が難しく、購入を検討している顧客から何か質問されても回答できない恐れがあるので積極的には説明していない。
②管理に関する説明をしようとすると、「管理組合とは何か」など基本的なところから説明しなければならない。営業中にその説明に要する時間はない。お金に関することで言えば、諸費用や住宅ローンに関することなどもっと説明に時間をかけるべき内容がたくさんある。
③管理情報はマイナス情報が多い傾向がある。理事会の開催回数が多ければ、理事会に参加したくないという要望に回答しなければならないし、未収金があれば回収できない時はどうなるのかという質問に回答しなければならない。新しい生活に向かって夢を広げ、購入に向かって気持ちを盛り上げたい時に、マイナス情報の話はできるだけしたくない。
④管理会社に重要事項調査報告書の発行を依頼すると手数料がかかる。仲介手数料の上限額が法定で決められており、この中でいかに利益をねん出するかを考えると、手数料(経費)はできるだけ抑えたい。
 
 管理に関する情報の開示項目を見ると、マンション管理業に従事している者ですら、説明が難しい項目もある。それを異業種の仲介会社の営業担当者から説明するのは難しい。また、営利企業である限り経費を削減しようとする方向に向かうのも仕方がない。

6.買主の側からも積極的に開示を求めてほしい

 仲介会社においては、過去、長い間にわたって管理に関する説明がなされてこなかった。その歴史を考えると、すぐに管理情報を提供しようとする方向に転換することは難しいだろう。買主である消費者の側からも、買主側仲介会社に対して「管理に関する情報の提供をお願いします」という積極的な働きかけをしなけば情報は得られない。
 こうした点を踏まえると、マンション管理計画認定制度やマンション管理適正評価制度は、仲介会社のニーズに合致する制度であると考えられる。マンション管理計画認定制度は「あり/なし」、マンション管理適正評価制度は「S、A、B、C」などのランクで表示されているため、細かい説明は必要ない。「認定が取得されていますよ」とか、「評価はAランクですよ」といった説明をしたうえで、内容の詳細については認定団体等が公開している資料を提示するだけでよいからだ。さらに認定や評価を受けたマンションは公開されているため、調べればすぐに分かる。仲介会社にとっては「使いやすい」ともいえるこれらの制度が、マンション購入検討の際のチェック項目として普及していくことをまずは期待したい。

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

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