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2019.12.23

特定の区分所有者が多数の住戸を保有している管理組合の現状

コミュニティ

特定の区分所有者が多数の住戸を保有している管理組合の現状

1 .調査の目的

 区分所有法では、次のような規定がある。

(規約事項)
 第三十条 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
 2 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
 3 前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
(以下略)

 この条文は、新築マンション分譲時において、等価交換等により住戸を多数取得した区分所有者(以下「多数所有者」という)に対して有利な管理規約が作成されていることによるトラブルが生じないようにしようとする主旨で平成14年に改正されている。法改正に反映されるくらいであるから、そこに至るまでの判例はもちろんのこと、トラブルも多数あったと推測される。
 そこで、当社管理マンションで、等価交換等により特定の区分所有者が多数の住戸を所有しているケースを調査した。
 法改正の主旨から、これら多数所有者のマンションは次のような傾向があるのではないかと推察した。
 ①理事会、総会の決議等において、多数の議決権を背景に自分の意見を通そうとするワンマン型が多い
のではないか。
 ②長期間にわたり理事長に就任する傾向があるのではないか。
 ③他の区分所有者は、多数所有者に組合運営を依存しているか、無関心になる傾向があるのではないか。
 マンションの特定にあたっては、区分所有者数と総戸数の間に乖離がある建物を抽出した。また、上記仮説の検証は、建物担当者にヒアリングする方法により調査した。
 

2.当社管理受託マンションで多数所有者が所有している管理組合

 ①特定の区分所有者が総戸数の50%以上を保有しているマンション 計10組合
 ②特定の区分所有者が総戸数の25%以上50%未満を所有しているマンション 計7組合


事例

Aマンション総戸数の55%を所有
 過去に長期間にわたり理事長に就任していたことがあるが、他になり手がいなかったことが要因である。現在は理事会運営には参加されていない。理事長就任時には、大規模修繕工事、サッシ改修工事、給水管更新工事などを実施。現在でも議決権を多数所有していることから、修繕工事の議案に関しては、総会に諮る前に工事の主旨を説明する必要がある。修繕工事に関しては知識も豊富である。他の理事は、多数所有者がいることををあまり気にしておらず、理事会でその存在が話題になることもない。

Bマンション総戸数の51%を所有
 ご高齢であるが管理組合運営と町会との関係に関心が高く理事会にも積極的に参加されている。他の区分所有者も多数所有者に判断を委ねる傾向がある。ただし、意見を言いにくいという雰囲気はなく、多数所有者がリーダー的に存在していることを歓迎しているようにも感じられる。

Cマンション総戸数の25%を所有
 総会には委任状の提出はあるものの、ご意見の記載もなく、総会に出席することもない。所有されている住戸の賃借人の入退去があった場合に管理組合に届出をされないこともあり、管理組合運営には無関心ではないかと思われる。他の区分所有者は、多数所有者がいることを知ってはいるが、それが総会の決議に影響するとは考えていないようである。

Dマンションご家族4名で72%を所有
 ご家族間で意見が分かれることはなく、理事会や総会では4名の意見が一致した状態で賛否の意思表示がされている(ご家族間で事前に話し合われているかは不明である)。そのため総会では特に議案に対する議論もされることなく決議される。他の区分所有者の方はそれに対して不満というよりもむしろ感謝しているようにも感じられる。

Eマンション総戸数の34%を所有
 Eマンションばかりでなく、その他のマンションも多数所有されている。マンションに関する知識は豊富である。建設業関係の会社を経営されており、他の区分所有者も修繕工事の実施などではその知識を頼りにしているようである。ただし、ご多忙であることから理事会や総会への出席はほとんどない。

Fマンション総戸数の82%を所有
 いわゆる昔ながらの下町の雰囲気が残る立地に存在しており、多数所有者と他の理事の間も昔ながらの「言いたいことは何でも言う」というような関係がある。活発なコミュニケーションをとりながら管理組合運営がされている。他の理事も気兼ねなく意見を述べ、多数所有者もその意見を尊重しているようである。

Gマンション総戸数の72%を所有
 多数所有者は、区分所有者のひとりではなく、賃貸マンションオーナーのような存在となっている。他の区分所有者は管理組合運営に関心が低く、総会は委任状の提出はあるが会場への出席者はいない。多数所有者のみが出席する総会ですべての決議がされているのが現状である。

3 .考察

 仮説に反して、大多数のマンションでは多数意見を尊重した運営がされている。収集した個別事例からは、区分所有法が改正された当時の多数所有者による有利な管理規約による管理組合活動への弊害が現れているケースは非常に少なく、むしろ管理組合活動にも会社経営の思考、手法を取り入れ、組織運営がうまくなされていると言える。
 その原因として考えられるのは、多数所有者は、個人名義で住戸を所有している場合でも、法人の経営者である場合が多く、法人名義で所有している場合も理事会に参加しているのはその代表者であるケースが多いことである。会社経営の思考、手法を管理組合という組織にそのまま応用して運営していると考えられる。理事長、副理事長、監事などの管理組合の要職に長期間就任しているものの、ワンマン経営ではなく他の区分所有者とのバランスをとり組織運営を図っている。むしろ、輪番で引き受けることになった役員よりもマンションに対する想いが強く、多くの事例で組合運営が良好に保たれている。
 また、多数所有者はマンション全体の資産価値が低下すると自己の資産全体の低下に結びつくため、大規模修繕工事に対する意識が高いのではないかと考えられる。
 どの事例でも修繕工事には熱心であり、通常は組合活動に参加していないケースでも工事が予定されている期には積極的に参加したりするという報告も多い。
 ファミリー向けマンションの場合、資産価値=中古売買価格と捉えられるが、これらの多数所有者の所有住戸は、賃貸用物件として貸し出されているため、資産価値=賃料と捉えていることも考えられる。
 自己所有物件に居住している区分所有者の場合、中古売買価格を考えるのは一生に数度のことであろう。しかし、多数所有者にとっては賃料収入という収益に影響してくる。当然に「きれいであるほうが賃借人の募集に有利、賃料が高くとれる」ことから大規模修繕工事に積極的になるのは当然のことと言える。
 さらに、資産価値の計り方も賃料収入を前提とするのであれば、どれくらいの投資に対して期待するリターンはどれくらいになるか、というような投資効率を計算しているとも考えられる。単に工事費用を圧縮するだけでなく、外観等の変更やオートロック化などの機能性の追加など通常のマンションでは決議されにくい工事も、リターンが期待できるのであれば積極的に推進しようとする傾向があるようである。

以上

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

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