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2021.1.25

戸建て団地管理組合

マンションの法制度

戸建て団地管理組合

 団地管理組合と言うと複数棟からなるマンションが想像されるが、マンションばかりでなく、区分所有法第65条に基づき、戸建て住宅でも団地管理組合は成立しうる(以下「戸建て管理組合」と呼ぶ)。
 新築の戸建て分譲地では、個々の住宅性能だけでなく、「街全体」にコンセプトが設定され販売されることも多い。こうした戸建て住宅を取り巻く状況の変化にもかかわらず、戸建て住宅における研究や事例紹介はマンションに比較してまだ少ない。
 当社の受託する戸建て管理組合は、28件、4,301戸である。マンション管理のように管理会社ごとの受託管理戸数は公開されていないが、この管理戸数は国内で最も多いのではないかと思われる。
 戸建て分譲地の管理手法としては、団地管理組合を設立するほかに、認可地縁団体を設立したり、NPO法人や一般社団法人などの協力を得て街づくり団体を運営したりする方法もあるが、ここではマンションの管理組合との比較により、戸建て管理組合の現状と今後について考察したい。

1.戸建て管理組合を設立する目的とその特徴

 戸建て管理組合を設立する目的は宅地内に設置される集会所や太陽光発電設備などの共用施設の維持管理とコミュニティの醸成の2点である。ただし、共用施設の維持のみを目的とし、コミュニティ活動は一切行っていない団地管理組合もある。
 管理を行う主体を団地管理組合とするのか、認可地縁団体(以下「自治会という」)とするのか、NPO法人に委託するのか、その手法は販売時に決定されることが多い。では、戸建て住宅分譲の事業主は、なぜ自治会ではなく、団地管理組合を選択するのか。その理由は、団地管理組合が次のような特徴を持つことがその理由である。

①入退会が自由ではないこと

 自治会の入退会は個人の意思による。自治会への加入率が下がれば、自治会費などの収入も減る。一方で団地管理組合は、区分所有法に基づき、建物所有者であれば組合員となり管理費等の支払い義務も生じる。加入
者の減少に伴う収入の減少に悩むことはない。

②集会所等の不動産が所有できること

 当社の受託する戸建て管理組合28件、4,301戸のうち、管理組合法人が18件、法人化予定が2件であり、戸建て管理組合の64.3%が法人化している。
 マンションにおける管理組合の法人化の割合は、2019年12月20日公開のレポート「管理組合法人の現状」にて明らかにしているが、当社受託管理マンションの1.8%程度である。戸建て管理組合が法人化する率はマンションに比較して格段に高い。
 法人化の目的は、集会所をはじめとする不動産の所有である。認可地縁団体でも一定の条件のもとで法人格を取得すれば、団体名義での不動産登記は可能であるが、団地管理組合も法人化すれば不動産登記が可能となる。こうした不動産を「核」として各住戸の所有者を団地管理組合の構成員とすることができる。
 集会所のほか「核」となる施設には、分譲地の入り口に設置されるゲートや、太陽光パネル、ゴミ置場などがある。

集会所、太陽光パネル

③管理費等の未収金が特定承継されること

 自治会費に未収金があった場合でもその未収金は転入者には請求できない。団地管理組合の場合は、区分所有法に基づき特定承継される。未収金の取扱いについてはマンションと同様である。上記①と同様に収入が減少するリスクは自治会と比較して低くなる。

 こうした金銭的リスクが低いことに着目し、団地管理組合が選択されている。ただし、団地管理組合は「核」を共有することが必要であり、分譲時に共有物がない場合には成立させることができない。後から成立させることができない点にも特徴がある。

2.戸建て管理組合のルールに関する課題と事例

①管理規約(土地所有者の取扱い)

 区分所有法第65条では、団地管理組合の構成員を「建物の所有者」としている。土地の所有者は含まれていない。
 マンションの場合は、借地権付マンションなど一部を除き、建物の区分所有者と土地の共有者は一体化している。マンション標準管理規約でも土地と建物を分離して処分することができないことが規定されている。しかし、戸建ての場合は、土地の所有者と建物の所有者が別々であることも一般的である。当初、同一の所有者であったとしても、後に分離処分することも可能である。こうした場合に、団地管理組合として、土地の所有者の取扱いをどうすべきかという問題が生じる。
 実際の事例では、次の2通りの方法がある。
 a.区分所有法通り、土地所有者は組合員としない。管理規約にて建物所有者のみを組合員として定義する。
 b.区分所有法に定めがなくとも、管理規約において土地所有者を準組合員とする。準組合員は届出制とし、退会の意思表示があった場合は、それを認めることとする。
 借地権マンションの場合、土地所有者が準組合員になるようなケースはない。しかし、戸建て住宅の場合、その設立の目的に「コミュニティ形成」があることから、街づくりから土地所有者を排除して考えることは難しい。こうした理由により、区分所有法の枠組みを超えた管理規約を制定しているケースもある。

【参考】区分所有法第65条
第六十五条 一団地内に数棟の建物があつて、その団地内の土地又は附属施設(これらに関する権利を含む。)がそれらの建物の所有者(専有部分のある建物にあつては、区分所有者)の共有に属する場合には、それらの所有者(以下「団地建物所有者」という。)は、全員で、その団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。

②管理規約(議決権の変動)

 戸建ての場合、土地の合筆、分筆等を行ったり、1戸の建物を2戸に建替えたり、隣接する住宅を購入し、2戸の建物を1戸に建替えることも考えられる。この場合は土地の区画数も建物の棟数も変動する。管理規約上の議決権総数、管理費等の徴収額に変化が生じる可能性もある。
 マンションの場合は、原則として住戸数が増加することはない。一方、戸建て管理組合でマンション標準管理規約に準拠した管理規約を制定すると、こうした議決権の総数の変動には対応できない。そのため、議決権の変動に対応できる管理規約としておく必要があり、総会のたびに議決権総数が変わることも視野に入れておくべきだろう。
 なお、当社の事例では、建築当初に景観協定や建築協定があり、合筆、分筆して周囲より大きな建物を建築したり、狭小住宅を建築したりすることができない場合がほとんどである。議決権の変動は、懸念事項ではあるが、現在のところ、この問題は顕在化していない。

③管理規約(建物の滅失、完成の時期)

 上記②の変動は、建物完成後ではなく、建物の建て替え期間中から発生する。届出制を原則とする団地管理組合としては、建物所有者からの届出をもって組合員でなくなる日、組合員となる日を確定せざるを得ない。実際の工事着工の日か、滅失登記の日か、建築確認完了の日か、引渡し日か、戸建て住宅には様々な「日付」が存在し、届出制を原則とすれば不公平感を生じる場合もある。
 また、建物を建築しないまま長期にわたり空き地となる場合もあり、建物所有者のみを組合員としている場合は、分譲時の想定議決権数、管理費の収入予定額より減少した状態で運営されている。
 こうした戸建て管理組合の特徴に対し、区分所有法上どのように考え、対応すればよいか、戸建て管理組合に関する法整備がされることを期待したい。

④共有物である「核」の存在

 団地管理組合は、マンションのように必然的に共用部分が存在するわけではない。
 問題となるのは、集会所等の建物を「核」(共有物)としたい場合でも、「建築確認前の建物(集会所等)」は、販売時の売買対象とすることができず、「核」にできない点である。集会所建物を団地管理組合の「核」としたい場合、集会所の建築確認を先に取得し、売買対象に含めることが必要となる。
 しかし、戸建て住宅の分譲は、段階的に行われることがほとんどであり、最初から集会所建物が建築されることは少ない。この場合、別の「核」を分譲時に設定しておかなければならない。合計2以上の「核」を用意する必要がある。これには、宅地内の防犯カメラ設備や分譲地の入り口に設置されるゲートなどがある。

⑤マンション管理適正化法の対象外

 マンション管理会社が戸建て管理組合から管理事務を受託する場合には、マンション管理適正化法の対象外である。ただし、当社では管理費等の収納を受託する場合には財産の分別管理等、マンションと同様の対応を行っている。戸建て管理組合も区分所有法に基づく団体であり、管理会社は管理組合から管理費等の収納を受託するのであるから、マンション管理適正化推進法の対象であってもよいのではないかと考えられる。

3.戸建て管理組合の運営に関する課題と事例

①戸建て管理組合の認知度

 一般的に、戸建て住宅に管理組合があり、管理費等の負担があるということはあまり知られていない。販売時にも「戸建てなのになぜ管理費を払うのか」というご質問を受けることが多い。さらに転売等で所有者に変更が生じた場合には、管理組合に届出がされない、仲介会社から管理組合の存在が説明されていない等のこともある。新所有者から「管理費を払うとは聞いていない」として支払いを拒否され続けているケースもある。
 こうした事例から、宅地内に「この分譲地は管理組合により運営されています。」という看板を設置したり、ゴミ置場などの随所に「〇〇団地管理組合」という表示をしたりする等現地に管理組合の存在を明らかにする工夫をしている事例もある。

②情報伝達・広報上の課題

 マンションの場合はエントランス等に広報文を掲示すれば、自ずと居住者の目に入る。各戸に広報文を配付する場合も、1か所にまとまった集合郵便受に投函すればよく、戸数が多くても数分の作業である。
 しかし、戸建て住宅の場合、集会所の掲示板に掲示したとしても、別の用事がなければ集会所に足を運ぶことはない。また、郵便ポストに投函する場合、隣戸との間に距離があり、規模によっては配付に数時間を要する。
 回覧板を回付する場合も、宅地の規模や在宅の有無により、全戸への広報が終了するには数日から数週間を要する。日常の連絡事項の伝達のほか、総会議案書、総会議事録の配布など管理組合に欠かすことのできない情報伝達に手間と時間を要することが多い。
 戸建て管理組合の運営には、インターネットや管理組合専用のホームページの活用などITの活用の推進が必須である。

③管理組合と自治会の役割区分

 マンションでは、共用部分の運営や修繕について合意形成を図らなければならない事項が多い。しかし、戸建て管理組合の共用部分は集会室等に限られ、マンションと比較して大幅に少なく、合意形成を図らなければならない事項も少ない。
 街づくりを掲げて分譲しているケースでも、こうした住民間の合意形成の機会の少なさから「管理組合は必要ない。」「自治会で足りる。」という声が上がり、管理組合は共有物を維持するためのみに存続させ、個人が近隣の自治会に加入することとして、戸建て管理組合によるコミュニティ形成に関する活動自体を辞めてしまう事例もある。

④補助金、助成金等における地方自治体の対応

 地方自治体では自治会に対して補助金や助成金を交付しているケースもある。これらの補助を受けるには、団体単位での申請が必要になる。自治会が申請者であれば特段の問題は生じないが、管理組合が自治会の役割を担っている場合、地方自治体に補助金等の申請をしても認められなかった例もある。
 平成27年5月12日総務省から各都道府県総務課長宛てに「都市をはじめとしたコミュニティの発展に群れて取り組むべき事項について(通知)」が出され、その中で「各地方公共団体において、地縁団体を対象に各種の連絡・支援を行う際には、その内容に応じ、管理の一環としこれらのコミュニティ活動を行っていると認められる管理組合に対しても同様の取扱いを行うこと。」とされているが、未だその取扱いは地方自治体ごとに異なっている。

 戸建て管理組合の中には、街の一斉清掃や夏祭りといったイベントが開催されるなど、住民間のコミュニティが形成されている好事例もある。こうした事例では、現在、社会問題化している所有者不明の空家問題も生じにくいと考えられる。戸建て管理組合の特徴を生かした運営が定着していくことを期待したい。

以上

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

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