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2022.3.29

そのハンコ、まだ必要ですか?

管理規約・細則

理事会・総会

そのハンコ、まだ必要ですか?

管理組合には、数多くの押印が必要な書類がある。最初に思い浮かぶのは、管理組合の資金を銀行から引き出したり、振込みをしたりする際に必要な「払戻請求書」であろう。銀行が指定する書類に、氏名(管理組合名、理事長名)を記載し、銀行取引印を押すものだ。

理事長または会計担当理事をご経験された方なら、毎月のように管理会社から依頼される押印書類の多さに、いささかうんざりしたご経験をお持ちかもしれない。そのほかにも、管理会社をはじめとする発注先の会社との各種契約書、区分所有者と管理組合との間で締結する駐車場賃貸借契約書、行政に提出する法定点検等の点検結果報告書、保管場所使用承諾証明書など。さらには、区分所有者から管理組合に提出する各種届出書にも捺印を必要としている場合も多い。

しかし、現在、これらの書類から「押印」が廃止され始めている。

銀行口座から通帳と印鑑が消える?

世の中は、銀行が通帳を発行しない方向に転換している。新規の通帳発行の有料化はすでに始まっていることからも、いずれ通帳はなくなることであろうと推測される。また、口座はインターネット上に存在するため、印影の届出も必要ない。

2021年12月には国土交通省からマンション管理業協会宛てに通知が発出された。

「金融機関のサービスであるインターネットバンキング等の通帳や印鑑を有しない口座についてマンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則(略)第87条第2項第1号イ、ロ及びハに規定する「収納口座、保管口座、及び収納保管口座」として活用することが可能である。(以下略)」

すでに一部の管理会社、管理組合では通帳と印鑑のない銀行口座での運用が始まっているが、それを後押しする通知ということだ。適正なパスワードの管理等がなされれば、理事長や会計担当理事の負担は軽減されるだろう。

あるマンション管理会社の話だが、金庫室の中に大型の金庫があり、その中に管理組合からお預かりしている通帳が保管されていて、金庫と通帳の重量のために入居できるビルも限られているという。また、記帳のために通帳を車両に載せ銀行まで厳重に運搬しているとのこと。確かに大変な作業だと改めて思う。通帳がなくなるということは管理会社にとってもメリットがあるのだ。

届出書類から押印が消える?

消防法や建築基準法に基づき行政に提出すべき報告書から押印欄が廃止された(※)。それでも、管轄する行政からは従来通り押印を求められる場合もあり、すべてが一斉に不要となったわけではないが、いずれなくなっていくだろう。

今まで、これらの報告書は点検終了後に理事長または押印権限のある理事に持参するか郵送するなどして記名、押印のうえ、管理会社に返送していただく必要があった。報告書によっては提出期限が定められている場合もある。返送のタイムロスがなくなることは手続きの迅速化につなげることができるだろう。

マンション標準管理規約では、コメントに例示のある区分所有者が管理組合に提出する各種届出書から、押印欄を削除している。以前より電子メールなどで届出書を受付けている管理組合では、すでに押印欄はない。

マンション管理から、押印は徐々になくなっている現状があるのだ。

※「令和2年総務省令第35号消防法施行規則の一部を改正する省令」「押印を求める手続の見直しのための国土交通省関係省令の一部を改正する省令」

押印を廃止するとき

押印という行為には、今までは「本人確認」と「原本性」が求められてきた。押印のある書類は本人が記載し、原本であるとされた。押印を廃止する場合、何をもって本人が記載した書類とするか、どの書類を原本とするのかを決めておく必要がある。

管理組合が区分所有者から取得する書類から押印を廃止するときに、陥りがちな対応方法として、本人確認のために運転免許証、マイナンバーカード、パスポートの提示やコピーを求めるなど、過度な本人確認をしようとしてしまうことだ。今まで求めていた押印が、文具店などに行けば購入できる認印でも可としていたなら、度を超えた本人確認書類の提示までは必要ないだろう。

また、契約書など、のちにトラブルとなったときの証憑となるような書類は原本性を確認すべきだろうが、内容が分かればよい届出書などは、原本とその写しを厳密に分けて保管する必要もないのではないだろうか。

それでも押印がなくならない書類はこれだ

ア.理事会議事録、総会議事録、規約原本
区分所有法やマンション標準管理規約では、理事会議事録、総会議事録、規約原本の「電磁的方法」による「電磁的記録」を認めている。ただし、この「電磁的方法」には、認証が求められている。現在、様々な会社から簡易な方法で本人確認を行い電磁的に押印を行うことのできるシステムが販売されているが、そのほとんどが区分所有法の求める認証ではない。
この認証を受けようとするには、数万円の費用がかかる場合もある。「それなら紙で作成し、紙で保管しよう」ということになるかもしれない。
紙の保管の場合、どの書類が原本なのか、本人が署名したのかを担保するために捺印しておこうという心理が働きやすい。
なお、2021年のマンション標準管理規約の改正では、それまで理事会や総会議事録、規約原本に必要であった議事録署名人等の押印が削除されている。同様に押印を不要とするには、管理規約の改正が必要であることに注意が必要だ。

イ.管理会社との間の管理委託契約書
企業間の契約締結は、電子契約が一般的になっている。この電子契約を締結するにはシステム提供会社と契約を締結する必要があり、もちろん有料である。一方で電子契約は印紙を貼付する必要がないというメリットもある。高額な金額の記載のある契約を締結したり、反復継続して契約を締結したりする場合は、印紙を貼付するよりもシステムを利用するほうが安価に済む。しかし、管理会社と管理組合との間の契約では、一部の管理組合を除き、今のところシステムを導入するまでのメリットはなさそうである。

押印することは悪いことではない。今までの日本の文化に根強く残ってきた慣習であり、押印の持つ本人確認、原本性などの意味はあらゆる場面で必要とされてきた。それでもIT 化、デジタル化の波は止まらない。押印を求めた途端に「紙」である必要が生じてしまう。

一つひとつの書類にある押印欄の持つ意味を確かめ、廃止できるものから廃止していく方向になるだろう。

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会法制委員会委員を務める。

久保 依子