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2021.10.29

マンションにおける認知症対応事例
~管理員、フロント社員1700人アンケート~

高齢化社会

マンションにおける認知症対応事例 ~管理員、フロント社員1700人アンケート~

アンケートの概要

 分譲マンションにはどのくらいの認知症の方が居住しているのであろうか。マンションみらい価値研究所では、2020年12月に「認知症の方が住みやすいマンションとは」と題したレポートを公開している。
マンションみらい価値研究所>レポート>認知症の方が住みやすいマンションとは

 公表されている数値だけで推測しても、100戸のマンションでおおよそ5人の認知症の方が居住していることになる。
 今回は、そこからさらに踏み込んで、高齢者向けサービスを提供するプレシャスライフ相談室にて、当社に勤務する管理員、フロント社員を対象に、認知症や認知症の疑いのある居住者の対応事例、さらには孤独死の実態をアンケート調査した。その結果、1,683名から1,724件の回答を得た。

※認知症と疑われる事例等を含む
※約1,700人、調査数の詳細は下記参照

マンションにおける認知症対応事例 アンケート概要

1.認知症の対応について

 アンケート調査は、認知症の対応事例について回答者の経験をフリー記入する方法にて実施した。分析に際しては、回答欄に記載された事例を類型化したり、キーワードを抽出したりする方法で数値化した。

①認知症及び認知症の疑いのある方の対応事例数

 総回答件数1,724件のうち、認知症及び認知症の疑いのある方の対応をしたことがあると回答した管理員、フロント社員は468件、約27%であった(図1参照)。
 なお、回答者は認知症に関する医学的知識を持っている者は多くなく、認知症以外の症例を認知症と誤認しているケースも含まれていると考えられる。

図1 認知症の方の対応をした例はありますか N=1,724

②マンションの築年数別対応事例数

 マンションに勤務する管理員からの回答1,557件について、マンションの竣工年 ごとにその傾向を示す(図2参照)。
 築年数が経過する程、認知症と思われる居住者の対応したことがあると回答した割合が増加する傾向がみられる。築年数が経過したマンションほど、居住者の高齢化が進行し、それ比例して認知症の対応事例も増加していると考えられる。

図2 マンション築年数帯別 対応の有無 N=1,557

③管理員及びフロント社員が対応した認知症の症状

 管理員やフロント社員が対応した認知症の症状は図3の通りである。
「同じ話を何度も繰り返す」が70件と最も多い(図3参照)。

図3 管理員・フロント社員が経験した認知症の症状 N=488(複数回答可)

 具体的症状の事例は次の通りである。
 ● 被害妄想:隣人が家に侵入して家財を盗んだと言う、等。
 ● 挙動不審:左右ちぐはぐな靴を履いている、他人の自転車の籠にモノを入れる、等
 ● 迷惑行為:修繕工事中の足場に侵入する、オートロックキーに詰め物をする、等
 ● 日時がわからない:デイサービスの日ではない日にエントランスで待ち続ける、等
 ● 設備故障対応依頼:何度も電気、ガス器具が壊れたと言って部屋内に立ち入るよう依頼される、等

 なお、人間の行動を類型化することが難しく、複数の症状が同時にみられたり、認知症と考えてよいか不明のものも多く、その他が137件となっている。

④各症状への対応事例

 前述の③にて報告された症状について、回答の多い「同じ話を何度も繰り返す」、「いわゆる徘徊」、「指定日以外のゴミ出し、ゴミの散乱」について、どのような対応をとっているかを調査した。

ア)同じ話を何度も繰り返す

 同じ話を何度も繰り返す症状への対応として、最も多いのは「話を聞く」という対応である。
 「相手の言うことを批判したりせず、笑顔で聞くことを心掛けている。」「同じ話をはじめて聞くような素振りをして聞くようにしている。」等、認知症の症状をよく理解した対応をしているケースが多い(図4参照)。
 ただし、「マスクをしないで話すので不安。」「途中で話を打ち切ると激高することがあり、勤務時間を超過してしまうことがある。」等の回答もあり、管理員業務に影響が生じているケースもある。

図4 同じ話を何度も繰り返す症状への対応 N=70

イ )いわゆる徘徊

 いわゆる徘徊の症状への対応としては、マンショ ン内で迷っている場合は、住戸まで案内する、外部に出ないように見守る等の対応例がある(図5参照)。
 いわゆる徘徊によりマンション外に出ていくようになると、親族や警察訪問介護者など外部の関係者に協力を依頼する対応となっている。
 ただし、管理員も常時、管理事務室にいることはなく、見守るにも限界がある。「親族から見守ってほしい、というご要望をうけたが、何かあった時に責任が生じるのではないか不安である。」等の回答もある。
 管理員業務として対応できない、という回答も11%ある。

図5 いわゆる徘徊の症状への対応 N=52

ウ)指定日以外のゴミ出し、ゴミの散乱

 指定日以外のゴミ出し、ゴミを散乱させる等の症状への対応としては、「注意する」と「親族に相談する」がそれぞれ23%となっている(図6参照)。注意するとしたケースでは「注意しても一向に改善されないで困っている。」との回答も多い。
 改善がされない場合、親族に相談したり、管理員が分別して指定日に出し直したりという段階に進むようである。ゴミの分別は管理委託契約でも管理員業務に含まれていない。そうは言っても、分別されないゴミは行政による回収がされない場合は仕方なく行うに至っている。
 他に、「指定日以外にゴミ袋をもって来られたら、そのまま部屋まで付き添い、持って帰っていただくようにしている。」「収集日の朝に声掛けをして正しい日時に出せるようにしている。」等の事例もある。

図6 指定日以外のゴミ出し、ゴミの散乱の症状への対応  N=35

2.考察

 管理委託契約では、管理員業務として、認知症の方に対して個別の対応をすることは契約の範囲外である。今回のアンケート調査では、「そうは言ってもやらざるを得ない」「人間として無視したままではいられない」といった契約関係とは別の、個人の人間性による対応がされていることが浮き彫りとなった。
 マンションに勤務する管理員は、従来より別の勤務先を定年退職し、第二の人生として従事するケースが多い。そのため自分自身もまた、高齢者でもある。今回のアンケートでも、親族や友人、知人に認知症の方がいる等、対応の経験があるのだろう、一定以上の知識や経験のあることが伺える回答が多い。ただし、専門家ではない。ましてや、管理員は1名での勤務形態であることが多く、周囲に支援者がいなければ判断に迷うことも多いであろう。
 管理会社としては、認知症サポーター養成講座の実施などを通じて、管理員が認知症の方に適切な対応をとることができる教育・研修を行っている。しかし、それだけでは万全の体制とは言えないだろう。報告されている事例は、中程度以上の方の事例も多く、それらの対応は管理会社だけでカバーでるものではない。
 また、個人情報保護の観点から、居住者の年齢や病歴などの個人情報は収集することはできない。会話や行動からの推測でしかない点に対応の難しさがある。
 現状では、管理会社、管理員は例えば親族や地域包括支援センターに「つないでいく」ことが最善の策であう。「つなぐ」ためにどういう方法があるのか、その点については、情報整理やマニュアルの整備が急務である。「プレシャスライフ相談室」は、そうした「つなぐ」役割を担う存在として設立された。現在、当社独自の対応マニュアルを策定中である。今後もその役割を担い、管理会社は何ができるのか、何をすべきなのかを考えていきたい。

以上

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会法制委員会委員を務める。

久保 依子

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