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2022.2.28

認知症バリアフリー社会の実現に向け、管理会社に求められていること

高齢化社会

認知症バリアフリー社会の実現に向け、管理会社に求められていること

はじめに

 大和ライフネクストは、日本認知症官民協議会※1の認知症バリアフリーワーキンググループに設立当初より参加し、積極的に協力を行って来た。また、マンションみらい価値研究所を立ち上げ、分譲マンションにおける社会課題についての調査研究・分析を行い、成果発表を通じて発信をしている※2。
 令和2年度、日本認知症官民協議会では、取り組みを推進する手立てとして「認知症バリアフリー社会実現のための手引き」(以下「手引き」とする。)を作成した※3。手引きでは、認知症の理解、事例、取組み(行動)などについて丁寧な説明がされている。この手引きを参考として、各々の業界や企業が独自のマニュアルなどを作成することが予定されている。
 令和3年度、同協議会で、個別の会社(参加企業)のマニュアル作成を支援し、そこから得た内容を留意事項として取りまとめることとなった。大和ライフネクストは、このマニュアル作成事業に参加することとなり、マンションみらい価値研究所も協力し、主に管理員へ向けたマニュアルの作成を行った。
 本稿では、マニュアルの作成に伴う検討を通じて得られた知見や求められる事項などについて研究所の立場からご紹介したい。
※1:日本認知症官民協議会。地域で安心して暮らせる認知症バリアフリー社会の実現や社会環境の整備、認知症になっても尊厳と希望を持って生活できる社会システムの構築が我が国の重要命題となっているという認識のもとに、国や地方の公共団体、各業界団体、認知症当事者などが一体となり、2019年に設立された。
※2-1:マンションみらい価値研究所>レポート>認知症の方が住みやすいマンションとは(2021年12月21日) 
※2-2:マンションみらい価値研究所>レポート>マンションにおける認知症対応事例~管理員、フロント社員1700人アンケート~(2021年10月29日) 
※2-3:マンションみらい価値研究所>レポート>マンションにおける孤立死の対応事例~管理員、フロント社員1700人アンケート~(2021年11月30日) 
※3:認知症バリアフリー社会実現のための手引き
 

1.「認知症バリアフリー社会実現のための手引き」の確認

 日本認知症官民協議会は、多くの業種に携わる者が参加しており、協議会の場での意見を通じて、業種によって、生じている事例や望ましい対応などについて違いに気付くことも多い。マニュアル作成にあたっては、手引きを活用して、他業種との比較を行い、分譲マンションの管理会社の特徴を把握することとした。
 手引きは、4つの業種(業界)が作成されている。4業種は、❶レジャー・生活関連、❷金融、❸小売り、そして❹住宅(主に分譲マンション)となる※4。作成にあたっては、作業委員会が設置され、求められる理念や望ましい対応などについて議論が行われた。なお、業種ごとの現状や課題感、事例については、認知症バリアフリーワーキンググループの参加企業の報告にもとづいている※5。
 手引きは以下の構成となっている。
※4:令和2年度第2回認知症バリアフリーワーキンググループ資料。マンションみらい価値研究所長の久保は認知症バリアフリーワーキンググループの作業委員会の委員をつとめている。
※5:2019年2月の令和元年第3回 認知症バリアフリーワーキンググループにおいて、当研究所の久保は、業界の現状や課題感などについて発表を行った。

認知症バリアフリー社会実現のための手引きの構成

Ⅰ【理念編】
Ⅱ【認知症の理解編~認知症の症状を中心に】
Ⅲ【事例編】
Ⅳ【行動編】

 Ⅰ、Ⅱ、Ⅳはどの業種でも基本的に同じ内容であり、Ⅲ【事例編】が各業種の事例にもとづいた内容となっている。事例は、各業界で5つ程度があげられており、そうした事例の背景などの解説に加えて好ましい接し方や留意点が説明されている。

(1)「Ⅱ【認知症の理解編~認知症の症状を中心に】」の内容

 認知症の症状を大きくふたつに分けて説明している。ひとつは「1.中核症状」であり、認知症の原因となる疾患によって直接的に生じるものである。もうひとつは「2.行動・心理症状(BPSD)」であり、中核症状を背景に、本人の性格や素質、環境や人間関系、心理状態など様々な要因が絡み合って起こるものである。

1.中核症状は、以下の4つに分けて説明されている。
 ①記憶力の低下…新しいことが覚えられない。少し前の体験をすっかり忘れる。
 ②見当識の低下…現在の年月日や今いる場所、人との関係などを把握できなくなる。
 ③理解・判断力の低下…考えたり判断したりすることが苦手になる。
 ④実行機能の低下…計画を立てたり段取りしたりすることが苦手になる。

2.行動心理症状(BPSD)は、以下の通り説明されている。
 不安・焦燥感…自信を失ったり、意欲が減退したりする。
 興奮・暴力…急に怒り出したり、興奮して暴力行為があったりする。

(2)「Ⅲ【事例編】」の内容

 4業種の事例を確認したい。Ⅲ【事例編】では、各業種に見られる事例を紹介し、続いて「なぜこのような行動がみられるのか」で背景が説明され、続いて「対応のポイント」で留意すべきことや望ましい対応が説明されている※6。
※6:背景の説明では、②【認知症の理解編】の中核症状や行動・心理症状(BPSD)と異なる表現が一部に使われているが、ここでは、比較をしやすくするために「認知症の理解編」の表現に合わせている。

表1 Ⅲ【事例編】の内容(抜粋)
表1 Ⅲ【事例編】の内容(抜粋)
表1 Ⅲ【事例編】の内容(抜粋)

(3)マンション管理から見た事例編の気付き

 マニュアルを作成するために事例編の内容を確認した。ここでは、各業種の事例編における背景の説明や留意すべきこと、望ましい対応の記載から、マンション管理の視点から見て気付いたことを列記する。

1)レジャー・生活編
 
●「❷〔理美容〕何度もお金の心配をする」といった内容は、マンションみらい価値研究所が行った調査(以下「同調査」とする場合がある。)※2-②参照では見られなかった。居住者と直接的に金銭のやり取りをすることは稀であるからであろう。しかし、認知症の疑いのある方が、管理員に「お金を貸してほしい」と言ったり、何らかの請求書を持参し相談を求めるなどの金銭に関する回答は見られた。
 ●「❸〔理美容〕「痛い、痛い」と繰り返す」にあるような事柄は、同調査では見られなかった。そもそも、管
理員などが居住者の身体に触れることは考えにくいからであろう。
 ●「❹〔公衆浴場・宿泊施設〕他人の衣服や履き物を着用してしまう」では「必要に応じて、家族や地域括支援センターと連携をとる」との記載がある。後述するが、住宅編では、家族や地域包括支援セターとの連携を、一般的な内容として示すことはされていない。
※2-2:マンションみらい価値研究所>レポート>マンションにおける認知症対応事例~管理員、フロント社員1700人アンケート~(2021年10月29日) 

2)金融編
 ●「❶お金が勝手に引き落とされていると訴える」「❷通帳や印鑑、保険証券などをなくしたと毎日のように訪れる」において「家族と連絡を取る。もしくは地域包括支援センターへの連絡や情報共有」に触れられている。金融機関では顧客個人と直に接するので、認知症に気付きやすいのかも知れない。また、その進行の度合いも分かることもあるだろう。それらが、連絡を記載する背景にあるように考えられる。分譲マンションの管理員では、居住者の認知症等の変化に気付くことは難しく、家族や地域包括支援センターに連絡を取る判断も難しいことが考えられる。 
 ●「❸商品の説明をしても理解できない」「❹契約したことを忘れている」「❺ATM等の機械操作が難しい」では、成年後見制度にも触れられている。これらで説明されている状況は財産を失うことに繋がりかねないと考えられる。分譲マンションの管理会社では、成年後見制度の知識はあった方が良いだろうが、そこに繋げるということは稀であろう。
 ●「❻突然怒り出す」では、対応者を変えることも触れられている。

3)小売り編
 ●家族や地域包括支援センターとの情報共有の記載はない。小売業では、顧客の個人情報を取得していることは少ないだろうから、記載がないことが考えられる。但し、処方箋薬局においての事例のみで、家族や認知症専門医、地域包括支援センター、ケアマネージャーとの連携の重要性について触れている。
 ●「❶毎回同じものを買う」「❷支払いをせずに商品を持ち去ろうとする/売り場で食べる」の背景説明において、前頭側頭型認知症をあげていることが目についた。前頭側頭型認知症では、同じ行為を繰り返したり、社会的な行動が取れなくなることが特徴のひとつとしてあげられる。
 ●「❹突然怒り出す」では、「数人の職員で取り囲まない。」「対応する職員が変わることで、怒りがおさまる場合もある。」との説明がある。

2.マニュアル作成における検討事項や反映した事項など

 大和ライフネクストの管理員向けのマニュアル作成で、「(3)マンション管理から見た事例編の気付き」の内容を踏まえて、検討した事項やマニュアルに反映した事項をあげたい。
 ● 顧客と主に接するのは管理員やフロント社員となる。マニュアルは、主に管理員に向けたものが必要と考えられる。管理員は、高齢者も多く、マンションに一人で勤務していることが多いことが特徴と考えられる。
 ● 契約相手の違いが見られる。レジャー・生活や金融、小売りでは、契約相手は個人となり、分譲マンションの管理会社では、契約相手は、管理組合という団体となる。
 ● マニュアルにおいては、管理組合との契約との関係の整理をはかった。
 ●「突然怒り出す」という内容が、各業種であげられており、対応者を変えることが触れられている。管理員はひとりでの勤務が多いので、対応者を変えるということは難しい。
 ● 連携(連絡)の違いが見られる。分譲マンションでは、入居時の届け出などで個人情報を取得している。また、緊急時にも用いるその他の連絡先が分かることもある。その他の連絡先は、家族や勤務先など登録されていることがあり、漏水などの緊急時に利用されている。
 ● その他の連絡先を利用して、家族などへの連絡・相談をどのどうな場合に、どのタイミングで行うかは、プライバシーや個人情報への配慮も要する。業種のよっては、手引きに家族や地域包括支援センターへの連絡があげられている。手引きに(その業種の一般的な対応として)掲載できるということは、大きな違いと思う。
 ● マニュアルにおいては、マンションみらい価値研究所が行った調査※2-②参照で得られた代表的な状況について、認知症の進行の度合いや日常生活への困窮を予想し、家族や地域包括支援センターへ連絡する判断が出来るようにこころみた。
※2-2:マンションみらい価値研究所>レポート>マンションにおける認知症対応事例~管理員、フロント社員1700人アンケート~(2021年10月29日) 

 ● 前述の連携(連絡)とも関連することであるが、認知症に気付くことについても違いが見られる。分譲マンションの管理員は、居住者の個々人と接する機会は多くはない。小売りや金融などの売買や契約などの場面との違いが考えられる。認知症の兆候を示すような状況に会ったとしても、気づきに結びつかないこともあるだろう。
 ● マニュアルにおいては、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの代表的な認知症の概要を説明すると共に、マンションみらい価値研究所が行った調査※2-②参照の事例を用いて代表的な認知症の特徴を紹介し、気づきにつながるようにこころみた。
※2-2:マンションみらい価値研究所>レポート>マンションにおける認知症対応事例~管理員、フロント社員1700人アンケート~(2021年10月29日) 

 ●外部から伺える状況は同じであったとしても、その原因は多様であって、認知症の方がお困りになっているこ とも様々であることに違いが見られる。「❶マンションの玄関やエレベーター前で立ち往生している」「❸ゴミ の管理ができない」「❹ポストに配達物やチラシがたまっている」という状況を手引きで紹介しているが、そ の原因は複数があげられている。たとえば「❸ゴミの管理ができない」では、「● 記憶力の低下のために、ゴミ の種類によって細かく決められた回収日が覚えられない。または忘れてしまう。● 見当識の低下のために、回 収の時間に合わせてゴミを出すことができないことが推測される。● 理解・判断力の低下や実行機能の低下 により、分別の仕方がわからない」と説明されている。
 ● マニュアルにおいては、例えば、「オートロックの開錠ができない」といった代表的な状況について、複数の理 由が考えられることを説明し、認知症ではなく聴覚に問題がある場合や認知症に伴って音に反応できなくな る場合があることを解説した。

表2 分譲マンション管理会社とその他業種との比較

3.認知症バリアフリー社会の実現に向け、管理会社に求められていること

 当研究所が令和2年度に行った調査研究では、分譲マンションは、戸建て住宅や賃貸住宅などの他の住居形態に比べて、介護保険サービスが利用されていないことが示唆された※7。また、行政や福祉関係者からも、分譲マンションは外部から見えづらく、オートロックの開錠の課題などもあり、社会福祉が届いていないという懸念をうかがうことも多い。分譲マンションにおいては、適切な接遇はもちろんのこと、適切な段階で、管理員や居住者が変化に気付き、本人の意思を出来るだけ尊重した上で福祉へつなぐことが求められるだろう。
 現状では、マンション内を行ったり来たりしていたり、オートロックの操作に戸惑うなどが生じて、認知症に気づくことが多いようである。それでは認知症がある程度進んでいることが予想され、その方が介護保険サービスを利用していないとすれば、少々気付くタイミングとしては遅いことが懸念される。
 適切な段階で福祉につなぐためには、アルツハイマー型やレビー小体型など代表的な認知症のタイプについて、事例に基づき、周囲から分かることやタイプの特徴をまとめておき、管理員や居住者から得た情報を、認知症の気付きに結びつけることが有効と思われる。
 福祉に繋ぐ際には、ご本人のプライバシーや個人情報の保護に十分に配慮することが必要となる。纏めると簡単なことに見えてしまうが、現実にはなかなか難しい。管理会社としては、社内の情報を集め、代表的な事例について望ましい方針をまとめておくことが考えられる。その際には、認知症に伴って生じる変化を気に掛ける段階から福祉に繋ぐことが早急に求められる段階まで、具体的な事例から方針をまとめておくと良いだろう。
 「ゴミを捨てる」というマンションの居住者が何気なく行っている日常生活上の行動でも、それを分解すると、ゴミを適切に分別し、決められた日に、ゴミを収集場所などに出すという能力が必要になっている。これらを行う能力のうちどれかが認知症によって失われると、結果的に「ゴミを出す」ことが出来なくなっていることが想定される。一方で、ゴミの回収日が分からないのであれば、回収日にお声をかけるといったちょっとした配慮で、改善されることも期待できる。管理会社としては、そうした日常的なちょっとした役割を果たせることも多いだろう。
 オートロックの開錠やデイサービス来館時の一次駐車など日常的に配慮できることは他にもある。分譲マンションにおける日常的な生活動作について、その内容を分解して、支援を考える必要があるのではないだろうか。
 なお、管理会社としては、主体である管理組合の理解がかかせない。管理会社だけでなく、管理組合の理解も進むことにも期待したい。
※7:マンションみらい価値研究所>論文>令和2年度厚生労働科学研究費補助金(認知症政策研究事業)独居認知症高齢者等が安全・安心な暮らしを送れる環境づくりのための研究に 関する分析の委託

この記事の執筆者

田中 昌樹

マンションみらい価値研究所研究員。一般社団法人マンション管理業協会出向中。現在は、マンションみらい価値研究所にて、防災・減災に関する統計データの活用や居住者の高齢化や災害の激甚化などの社会的な課題について、調査研究や解決策の検討を行っている。

田中 昌樹

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