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2023.9.14

「1円でもNo」を経た熱海のマンションV字回復。
元マンション管理会社社員の活動に“マンションにおける問題解決へのヒント” を見る

組合運営のヒント

コミュニティ

高齢化社会

今回のコラムは、2023年10月12日(木)に開催予定のマンションみらい価値研究所オンラインセミナー「これからのマンションの課題を考える〜熱海が教えてくれる未来のマンション管理〜」との連動企画です!ゲストの方への事前インタビューをもとにしたコラムをお届けします。

株式会社マチモリ不動産 代表取締役 三好 明さんは、不動産所有者向けの空室・空き家対策コンサルティング事業を熱海で展開されています。空き家率、高齢化率も高く、未来の日本の縮図ともいわれるほどに問題が山積していた熱海の地で活動を始めたわけや、ご自身の取り組みについてお話を伺いました。

「熱海の不動産再生」という使命感から起業

熱海──まず名前がいい。

熱い海というこの地名に、誰しもの脳裏に勝手に、南国の海辺というリゾート地を連想させる威力があるはずだ。地名という“名キャッチコピー”も手伝ってか、昭和初期の新婚旅行のメッカといえば熱海だった。

ところが1990年代に起こったバブル崩壊、さらに2011年の東日本大震災がダメ押しとなり、熱海の年間観光客数は、ピーク時の約半数である約246万人にまで減少。「衰退した観光地」と形容されるまでに至る。すると経済は衰退、そこからドミノ倒しのように人口減少、マンションの空き家問題などが勃発。相次ぐ困難に見舞われた。

その事態を受け、ある人物が使命感に駆られ「ボランティア」として2012年より現地に赴くことになる。その人物とは、大和ライフネクスト株式会社(当時は旧社名:株式会社コスモスライフ)でマンション管理に従事していた三好明氏。現在は同社を退社し、引き続き熱海の中心市街地再生のため株式会社マチモリ不動産を設立し、代表取締役として事業を展開している。

ここでひとつ断りを入れておくと、この記事はWebなどで検索すればすぐに出てくる熱海再生物語と同類のオチではない。“元マンション管理会社社員であった”という三好氏の特異的な視点が活きてくる、マンション問題、空き家問題などの解決の糸口へとつなげていくものだ。

そもそも何故、三好氏は熱海に興味を持ったのか。直結するきっかけといえば、ニュースなどで騒がれ始めた熱海の経済衰退もあるようだが、大学在学中より参加していたNPO法人ETIC.の紹介により、プロボノとして参加したことによる。

ちなみにプロボノとは、医者や弁護士をはじめ専門知識を持った人物が無償で社会貢献をするボランティアのこと。三好氏はマンション管理のプロとしての知見を提供。当時現職のマンション管理会社と並行し、5年にわたり毎週休みを返上して週2日も通ったのだという。

きっかけの追い風となったことを追記すると、「マンション管理とは、一部屋の価値ひいては一棟の価値を単体で維持・向上していくもの。しかし『熱海』というエリアの価値を向上させることで、一部屋ないし一棟の価値も上がる、ということに非常に興味を抱いた」と語っている。

 “その視点”が軸であることを、最後まで忘れずに読み進めてほしい。

熱海を取り巻く課題が、10年後の日本の社会問題に

さて、三好氏の熱海参画の経緯は上記程度におさめ、熱海ではどんな問題が起きていたのかを紹介していく。

2011年に東日本大震災が発生した翌年、三好氏は熱海の地を踏んだ。その当時のことを訊くと、すでに築50年以上が経過しているマンションが3棟ほどあり、そのうちの一棟はセンセーショナルなエピソードがあったと話す。

「181戸のマンションうち10戸以上が、1円でも売れない、つまり、『誰もいらない』という出来事が実際にありました」

これにより派生するのが、管理の積立金が入ってこないという問題だ。本来は、売れなかったとしても、その時点の所有者に積立金の請求ができる。しかし、このマンションでは、競売にかけられた住戸の買い手がつかず、その管理組合法人が自ら所有せざるを得ない状況だったのだ。勤務している管理会社では“あり得ない”事態が、ここ、熱海に起きていることに「課題が行き過ぎていて、どこから着手したらいいのか呆然としました」と振り返る。

他のエピソードとしては、熱海では、区分所有法が制定される以前に建築が進められていたため、鉄筋コンクリート造5階建てが6棟ほど連結した状態のものがあった。当然ながら管理組合なども存在していないものがあるという。このケースの最大の問題は将来、必要に迫られたとしても「建て替えができない」こと。

言ってしまえば、熱海はマンション管理の無法地帯であったようで、都心では当たり前のように行われているマンション管理の実態はもはや成立していない。「熱海には、現状の問題、そして将来やってくるマンション管理の問題が凝縮されていて、私はやり甲斐という意味で興奮しました(笑)」と三好氏は当時の意気込みを表現した。

つまり、2012年当時に熱海で起きていた問題は、10年経った現在、日本のマンションにおける社会問題となっており、熱海が先行していたということ。三好氏が「マンション管理の問題が凝縮されていた」と表現したことからも、いわば“日本の縮図”がそこにあったようなのだ。

空き家率は2018年時点52.7%で、これは全国ワースト2位。高齢化率は2021年時点で約49%と高い(都道府県ランキング1位の秋田県で38.6%)。「将来必ずやってくるマンション管理の問題が、タイムスリップしたかのような形で眼の前に広がっていた」と驚きを口にした三好氏は、“未来人”のような気持ちで現在のマンション管理の問題を俯瞰しているのかもしれない。

熱海銀座“シャッター”商店街、この立て直しが後に好影響

「僕個人としては、マンション管理のプロとして、マンション管理の未来というものに興味と活動のベースがあるのであって、街づくりがしたいとかお金儲けがしたいということではないんです」

と前置きをしつつ、熱海銀座商店街33店舗中10店舗しか営業していない、いわゆるシャッター商店街の再生の事例を語ってくれた。

「誰一人として通らない商店街で、まずはカフェを始めました。次にゲストハウスを始め、ホテルを計3つ、さらにコワーキングスペースを作りました。通りを歩行者天国にしてマルシェを開催することもしました。誘致しようと思っても誰も見向きもしなかったので、とにかく、まずは自分たちで商売をしてみました」

それが6年経った現在、街には人が溢れ、お店には行列ができる活気を見れば、それが成功であったことが誰の目にも解る。

また、三好氏は管理会社社員だった頃の「神奈川県A市のマンション」への提案事例について語っていたことがある。

「神奈川県A市に大規模のマンションがあり、そこの管理を受注できた時のことです。直感的に植栽などで見栄えを美しくすることで周辺の景観も良くなるはずと思いました。これによりエリアの価値向上につながった事例をそれ以前の熱海でのボランティア経験で実感していました。それをこのマンションでも活かせないかと思い、築11年のマンションでしたので大規模修繕をする時期にさしかかっていましたが、それを差し置いてでも外構周りのデザインを優先したり、イベントの開催やホームページの見直しなどを提案。このマンションの資産価値を上げ、多くの人に住みたいと思わせるマンションにしましょうと提案したところ、『面白い』と評価してもらったことがあるんです」

長期修繕計画にない提案を行ったという点では正攻法ではない発想だが、この時の体験が熱海再生のヒントになっているのかもしれない。

株式会社マチモリ不動産は、事業の半分が仲介・転売であり、そのまた半分近くがリノベーション元請け、そして賃貸管理などを行っている。

“お上手”なのは、建物のオーナーやマンションの区分所有者から一時賃貸契約する形をとり、ターゲットやニーズに合わせた開発ができていること。具体的にいえば、古い建物や部屋をリノベーションによりおしゃれにしつらえ、転売または賃貸にしている。さらに、そこに住まう人、または利用する人には、ゲストハウスと提携して温浴施設を使うことができたり、コワーキングスペースで作業ができたりなど、まさしく“手の内”で人を回遊させられるアトラクションを設けているのだ。

──と、ここで疑問に思うのが「三好さん、結局のところ、街づくりをやっているんじゃないですか?」というあたり。冒頭で述べたように、“マンション管理のプロとしての視点”から、現代に山積する社会問題をどうすればいいのかというヒントを期待している読者にとっては、三好氏の自慢話なんじゃないかと、満足できないところだろう。

──で、「どうする三好」!?

「私どもは『街ごと居住』という概念で事業を進めているんです」

つまり、街をひとつの家と見立て、長期的、短期的、はたまた観光者の1泊滞在も含めライフスタイルを誘導しているという。これを空き家を使ってやっていることで、空き家問題にも着手している最中だと語る。

しかし、ここから先が聞きたいのだ。

すると三好氏は、“よくぞ聞いてくれました”とばかりにこう話し出す。

「街づくりをやってきたことで、不動産の使い方の自由度を高める発想が生まれた、というのが実感値です」とし、マンション管理会社に勤務していた時、神奈川県A市の大規模マンションで提案したプランが功を奏したように、理屈抜きで「ステキ」「楽しそう」という気持ちからの所望こそ、アクションにつながるのだと言いたげだ。

そこで各課題に対して、こんな解決策を見出している。

◉1円でも売れなかったマンションの一室
マンスリーマンションとして展開し稼働率を上げている。民泊を許可する管理規約が存在しないため、マンスリーなら1ヶ月の賃貸借契約で解決し、管理規約違反にはならない。

◉老朽化によるマンションの資産価値低下
安価で買ってリノベーションで価値を上げ高価に売る。日本の先頭を切って建設ラッシュとなった熱海では、都心以上に老朽化した建物が多い。上下階で揉め事になりやすい漏水の原因となる配管を含め安全を担保できる状態に修繕しつつ、リノベーションで現代風に蘇らせることで、同タイプの部屋が150万円で売りに出されているのに対して、800万円で売りに出しても買い手が現れるほど。

◉ペット禁止のマンションばかり
管理規約を一気に変えるのではなく、段階的、実験的に規制緩和していくことを提案。昨今のペットブームにより別荘的に滞在する人にとっても愛犬・愛猫との時間の共有を求める声が多い。とはいえ従来の規制も尊重した解決策となるはずだ。

◉10部屋以上空いているマンション
ホテル従業員の社宅にすることを提案。観光客が戻ってきたことでホテルの稼働率も上がり、それにより従業員の人数も増加。一部屋で完結ではなく、マンション全体、エリア全体で居住が完結できるという発想をとった。さらにマンション内シェアハウスも現在実現に向け準備中とのこと。

インタビューの中で、三好氏が最後に語ったこと。

そのことこそが、この記述のオチであり、マンション管理業に従事する者だからこそできる「誘導」だったことに気付かされるはずだ。それは──

管理組合としての方向転換、具体的には管理規約の見直しと、必要に応じた改定だ。

管理組合運営には欠かせない管理規約だが、時代の流れの中でライフスタイルは変化し、高齢化に象徴されるような社会問題などに照らし合わせた時、今となっては適さない事項も存在しているかもしれない。これを三好氏は「管理組合ルールの社会的劣化」であると表現した。つまり、管理組合ルールも時代についていかないと生き残れないというのだ。

とはいえ、改革を断行するばかりが得策とはいえず、トライ&エラーを繰り返しながら最善のものを模索していけば良いと三好氏は言う。

現代を取り巻くマンションにおける社会問題は、現時点で解決策の“正解”はないのだろう。そして、標準的かつ画一的な策では到底太刀打ちできないのかもしれない。

空き家をどうするか、高齢化による認知症や孤立死、理事のなり手不足をどうするか。

こうした問題も、三好氏が語った熱海の事例・神奈川県A市のマンションの事例に当てはめて考えてみるとイメージがしやすいかもしれない。
「マンションの高齢化率が上がった」「空き家率が上がった」
この事態に頭を痛めつつ手を打たないのであれば、改善の可能性は期待できない。管理組合運営を自分ごととして捉え、
◯「住みたい」と思わせるマンションに
◯周辺の景観に貢献できるマンションに
◯地域とつながるイベント開催や、HPなどひと目にふれるマンションに
◯エリアの価値向上につながるマンションに
していくこと。

これを目標に管理組合運営と管理規約を見直してそのマンションの未来に向けて必要な改定をすることで、解決の糸口へとつながるかもしれない。

この記事の執筆者

浅井 ユキコ

放送作家・コピーライター。(株)iPPON CAMPANY取締役、(株)LOCOMO&COMO代表。コピーライターとして不動産広告を長年に亘り数多く手がけてきた経験を活かしコラムの執筆も。設立から参加した一般(社)TERACO舎では社会貢献活動も積極的に行っている。

浅井 ユキコ

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