1.カスタマーハラスメントの実態と対策の重要性
2025年4月1日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されました。この条例は、顧客等と働くすべての人が対等の立場に立って、お互いに尊重し合う公正で持続可能な社会を目指す目的で制定されました。
(出典:東京都HP 広報東京都2025年4月号)
この背景として、カスタマーハラスメント問題の深刻化が挙げられます。
厚生労働省の調査によると、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)の件数が「増加している」と回答した企業の割合は22.6%で、「減少している」の12.6%を上回っています。
一方で、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどのほかのハラスメント行為は減少傾向にあり、近年におけるカスタマーハラスメントの深刻化が浮き彫りとなっています。
(出典:厚生労働省HP 第6回雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 資料4 職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要)
2023年9月には、厚生労働省により「心理的負荷による精神障害による労災認定基準」の改正が行われ、心理的負荷の強さを評価する項目に、「顧客や取引先、施設利用者から著しい迷惑行為を受けた」が追加されています。このような背景からも、企業における従業員へのカスタマーハラスメント対策の重要性が増しています。
(出典:厚生労働省HP)
2.カスタマーハラスメントの定義
そもそもカスタマーハラスメントとは、どのような行為を指すのでしょうか。法律や条例では明確に定義されていませんが、一般的に、サービス提供者や従業員に対し、顧客から通常期待される礼儀正しい要求や意見交換の枠をはるかに逸脱する、不当かつ過剰な要求や暴言、威圧的な言動、場合によっては身体的な暴力をも含む迷惑行為の総称とされています。具体的には次のような行為が挙げられます。
《不合理・過度な要求》
サービス提供範囲や契約条件を超えた要求、何度も繰り返される無理な注文、会社や従業員に対して一方的に譲歩を迫る行為など、通常考えられる合理的な枠を明らかに超える行為
《暴言や侮辱的な発言》
従業員に対して人格を否定するような言葉や罵倒、脅迫的な表現を用いることで、心理的な苦痛を与える行為
《威圧的な態度や身体的な攻撃》
口頭での威圧だけでなく、ジェスチャーや身体的接触により、相手を恐怖状態に陥れる行為
《業務遂行を妨げる行為》
これらの行為に対して企業が対策を怠ると、職場でのメンタルヘルスの悪化や離職率の上昇につながるため、企業が組織的に対策を講じることが重要です。
3.カスタマーハラスメントの実際の事例
実際にどのようなカスタマーハラスメントが発生しているのか厚生労働省がホームページで公開している事例をもとに見てみましょう。
【運輸業】
運転見合わせ時に、お詫び放送を繰り返していたところ、旅客から「いつ発車するのか放送しろ」としつこく詰問を受けた。運転再開見込みがわからない旨を伝えたが、旅客は納得せずスマホで車掌の対応を無断で動画撮影した。
【小売業】
顧客が購入した商品(時計)が不良品だったため修理受付を行ったが、顧客が納得しなかったため従業員は店舗で謝罪した。さらに、顧客が翌日自宅まで来て謝罪することを要求し、従業員は4日間深夜まで謝罪させられた。顧客はその間「誠意をみせろ!」の一点張りだった。対応した従業員はその後しばらくトラウマを抱え、売り場に出ることに恐怖を感じた。
【飲食サービス業】
顧客が半額シールの付いた弁当を自分の過失で落とし販売不可能な状態となった。従業員が衛生の観点で販売できない旨伝えたところ、その商品を販売するか、もしくは他の商品を半額にすることを求め、店内で騒ぎ続けた。
【生活関連サービス業】
顧客の安全を配慮し、サービス(靴の加工)を丁重に断ったところ、フロア全体に響き渡る程の大声で怒鳴り散らす、暴言を吐く、椅子を叩くなど2時間にわたり威圧的行動を取った。また、それ以降も不定期にその顧客が売場を訪れ怒鳴り散らすことが続いており、従業員が怯えている。
【医療】
利用者やその家族が看護師に看護の内容が適切でない」と批判したり、処置やケアに対して「下手くそ」と発言したり、「ばかやろう!」「帰れ!」等大声で怒鳴りつけた。また「お前じゃダメだ、いつもの人にして」と発言した。
(厚生労働省HP第9回雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会資料より抜粋)
いずれも実際に発生した事例であり、企業・業界を問わずカスタマーハラスメントが発生していることが分かります。
では、カスタマーハラスメントが増加している原因はどこにあるのでしょうか。
明確な原因は特定できませんが、PL法の施行や消費者庁の設置などの背景から、消費者が声をあげやすくなった、相次ぐ企業不祥事により企業への不信感が増大した、SNSなどの普及により簡単に不満や訴えを共有できるようになったなど、さまざまな要因が考えられます。
いずれにしても、今後カスタマーハラスメントが急激に減少するとは考えづらく、企業としては、しっかりと対策を行うことが重要です。
4.企業が実践すべき対策
カスタマーハラスメントに対して、企業が十分な対策をしていない場合、従業員だけでなく、企業全体や、ほかの顧客に対してさまざまな影響が及ぶことが予想されます。
・従業員に対しては、業務パフォーマンスの低下、健康不調(頭痛・睡眠不足・精神疾患)、現場への恐怖、苦痛による休職、退職
・企業全体に対しては、時間の浪費(クレーム現場での対応、謝罪訪問、弁護士への相談)、業務上の支障(他業務が行えない)、店舗・企業に対するブランドイメージの低下
・ほかの顧客に対しては、利用環境・雰囲気の悪化、業務遅滞によってサービスが受けられないなどといった影響が出ることが考えられます。
カスタマーハラスメントの事例のなかには、被害を受けた従業員が、企業側に安全配慮義務違反があったとして損害賠償請求を起こし、認められた事案もあります。(医療法人社団こうかん会事件 東京地裁 平成25.2.19判決)
※参考:厚生労働省 あかるい職場応援団HP
大切な従業員の心身の健康を守るとともに、企業自身が責任を追及されないためにも企業での対策が重要です。
具体的な対策として参考になるのは、厚生労働省が2022年2月に作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」です。マニュアルでは、以下の対策が基本的な枠組みとして推奨されています。
【カスタマーハラスメントを想定した事前の準備】
① 事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
・組織のトップがカスタマーハラスメント対策への取組の基本方針を明確に示す
② 従業員のための相談対応体制の整備
・カスタマーハラスメントを受けた従業員が相談できる相談対応者を決める。窓口を設置する。
➂ 対応方法、手段の策定
・カスタマーハラスメント行為への対応体制、方法等をあらかじめ決めておく。
➃ 社内対応ルールの従業員への教育・研修
・顧客からの迷惑行為、悪質なクレームへの社内における具体的な対応について、従業員を教育する。
【カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応】
⑤ 事実関係の正確な確認と事案への対応
・カスタマーハラスメントに該当するのか否かを判断するため、顧客、従業員等からの情報をもとに、その行為が事実であるかを確かな証拠・証言に基づいて確認する。
⑥ 従業員への配慮の措置
・繰り返される不相当な行為には一人で対応させず、複数名で、あるいは組織的に対応する。メンタルヘルス不調に対応する。
⑦ 再発防止のための取組
・同様の問題が発生することを防ぐため、定期的な取組の見直しや改善を行い、継続的に取組を行う。
⑧ ①~⑦までの措置と併せて講ずべき措置
・相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知する
・相談したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはななない旨を定め、周知する。
すでに多くの企業がカスタマーハラスメントに対する基本方針を自社のHPで公表しています。
業種ごとの特色もありますので、これから作成される企業は同業種の方針を参考にするとよいでしょう。
※参考:厚生労働省 あかるい職場応援団 カスタマーハラスメント対策企業事例
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2025.07.31